タイトルを考えるのが死ぬほど苦手

 
2021/08/06


 腰に女がぶつかって驚く。殺意も何も感じなかった。だが急な接触に本能が体を砂にし、ぶつかってきた女に対しても能力を発動してしまったのかかすれた呻き声が聞こえて眉を顰めた。その耳に届いたかすれ声がいつか聞いたことのある音だと気付いて慌てて首根っこを鉤爪で引っ掴んで目の前にぶら下げ瞬く。ぼろぼろと涙を流しながらおれを睨み付ける果敢な瞳は確かに見覚えがあって、だがこんなところに居るはずもない女。置いてきたはずの女。

「ばか!」

 開口一番に水分のなくなった音で罵られて目を細める。殺されかけて、こうして退路を断たれているというのに第一声が罵倒で本当に良いのか。自分を裏切り捨てた男に罵倒を浴びせるのは当然か、と思わず笑う。そうだな、おれは馬鹿だ。海賊らしく無理にでも攫わなかった。能天気な女には能天気な生活が似合うと思った。だから捨ててきた。はずなのに、自らまた飛び込んでくる馬鹿さ加減に呆れる。
 捨てられてプライドが傷付いたんだろうか。自分を捨てた男を罵り平手打ちでも贈りたかったんだろうか。そんなことをすれば殺されてしまうかもしれないとは微塵も思わなかったんだろうか。おれのことを海賊だと知っていたくせに。能天気な女はどこまでも能天気で馬鹿だった。だからこうして飛んで火に入る夏の虫とやらを体現してくれているんだろうか。思わず笑ってしまったおれを見て傷付いたように顔を顰めてばかとしか言わない口に齧り付く。
 ゼロ距離で驚きに見開く目玉に思わず笑ってぶら下げたままだった体勢を少しでも楽にしてやろうと腕で抱えなおした。目を白黒させて混乱している姿を見下ろして歩みを進めた。

「えっ、あれ、ちょっ、」
「せっかく一度離してやったのに自ら檻に戻ってきたのはお嬢さんだろう」

 おれの言葉に一瞬間抜け面を晒したかと思えば、また睨み付けてくる無謀な勇気に鼻で笑う。文句を言うだけで済むと思ったのか? おめでたいお嬢さんだ。

「どうしてクロコダイルさんがそんなこと言うんですか?! 怒ってるのは私です! どうして私のことを置いていったんですか! 探したんですよ!」

 その言葉に歩みが止まる。胸元を全く痛くもない拳で殴られて、ひたすらに置いていったことを怒る言葉ばかりぶつけられて脳がうまく働かない。

「二度と置いていかないでください!」