タイトルを考えるのが死ぬほど苦手

 
2021/08/07


「こ、……んばんは」
「あァ」

 曲がり角から現れて目が合った瞬間に気まずそうに視線を彷徨わせながらもきちんと挨拶はする姿に思わず笑いそうになる。奇遇ですね、だなんて白々しい台詞に、そうだな、とこちらも白々しく返して見下ろした。毎日毎日どこかしらで会えばどんな鈍い人間でも疑う。別に隠す気もないが問われてるわけでもないから黙ったまま。足を動かそうとしないおれに痺れを切らしたのか、それじゃあ、と早々に立ち去ろうとするのを引き止める。

「晩飯は食ったのか」
「……まだです」

 馬鹿正直な女に喉を鳴らして歩き出す。そうだな、賢明な判断だとおれも思う。賢いお嬢さんじゃァないか。毎日毎日偶然に出会うわけもない、自分の行動はきっと見張られている、そんな相手に嘘をついたらどうなるかなんてわからないから逃げたくても毎度馬鹿正直に返事をするしかないんだろう。何も言わずに歩き出したおれの背中を戸惑うように見つめる視線が突きささり、諦めたように小さなため息と足音がおれの後ろを追ってくる。
 おれが何者かなのかはとっくに開示して、聞かれたことはすべて手の内も明かしている。
 どうして色々買ってくださるんですか。お嬢さんに似合うと思った。
 どうして毎日会うんでしょうね。さてな、愛の力じゃァないか。
 どうして、どうして、どうして──────
 色々聞かれたが全て正直に答えている。だがいつも、どうして、で止まり最後まで紡がれることのない質問は聞きたいのに聞きたくない答えが返ってくると理解しているから聞けないんだろう。決定的なことを聞く勇気のないお嬢さんに無理強いするつもりも今のところはない。今のところは。次の、どうして、が楽しみで仕方がない。悪足掻きに今日履いている靴のブランドでも聞くか?
 どうして私を構うんですか。そういった類のことを聞けばいい。そうすれば、好きだから、と幼稚で簡潔な言葉を吐いてやる。

「どうして、────」