タイトルを考えるのが死ぬほど苦手

 
2021/08/08


 れでぃ、と慌てふためくサンジくんが狼狽えながら必死でぼくは触ってません、みたいなポーズをしてるんだろうなあ、なんていうのが見なくてもわかる。サンジくんの胸元にしなだれかかってまだ舌に残るビロードのようなワインに思いを馳せる。飲みすぎたわけじゃない。ほんの少し舐めた程度。だけど酔いは私の情緒を不安定にさせるだけの力があって、さっき見た光景が何度もリフレインして苦しくて、悲しくて、目を閉じた。
 1時間か2時間か、それくらい少し前。久々の穏やかな島でショッピングを各自楽しんで船に戻ろうとしたところだった。今日の夜の船番はサンジくんで、他のみんなは宿にいるからとロビンちゃんやナミちゃんに背中を押されて、だからお土産のワイン片手に浮き足立ちながら夕暮れに染まる街並みを歩いて私たちの船を目指していた。
 夕日の向こうできらきら輝く金色の丸い月のような頭をしたサンジくんを見つけて駆け寄ろうとしたのをやめたのは、隣に艶やかな女性が立っていたから。しなだれかかるように、サンジくんとひとつになって溶けたように一本の影になっているふたりの姿を見てしまったから。
 サンジくんもいつものようにでれでれしていれば、ああ素敵な思いができてよかったね、なんてどこから目線なのかわからないくらい心に余裕がある感想が持てたんだと思う。だけどサンジくんの表情がただの男の人の表情で、ただ幸せそうに笑っていた。今までとは違う笑顔。今更ロビンちゃんたちのいるホテルに戻る勇気もなくて、逃げるように船に乗り込んで日中の船番だったチョッパーに驚かれてしまった。意気消沈している私を見て心配そうに寄り添ってくれて、サンジくんが戻ってくる前にはいつもの私に戻れていたはずなのに。チョッパーと共にいた私を見つけて、朝までレディをひとりじめできるのォ?!だなんて目をハートにしてデレデレするサンジくんを見て、上書きできていたはずなのに。呆れたチョッパーがホテルに戻ろうと船を降りながらたしなめる声もあまり聞いていない様子で夢見がちな今日のプランを語るサンジくんにくすくす笑っていたのに。
 酔いは気持ちを昂らせるし、燻らせる。
 ぎゅう、と出てきそうになる涙を抑えるために更に抱きついて胸元に顔を押し付ける。私もサンジくんと溶け合うように一本の影になりたい。のに、サンジくんは私に触れ返してくれない。あの艶やかな女の人のようにしなだれかかったところで、私はあの人じゃないから。わかってる。わかってるけど、それでも女の人を無碍にはできないサンジくんは優しくてそれを利用する私は未練がましく離れられなくて擦り寄ったままで。

「サンジくんはずるい男の人だね」

 涙に濡れた声は情けなかった。放った言葉自体も情けない。サンジくんはずるくなんてない。ただの八つ当たりをする私がずるくてひどい女。ひたすら女の人を甘やかして傅いて持ち上げてプリンセスのように扱うくせにたったひとりにはしてくれないプリンス。だったはずなのに、あんな表情をすることを知ってしまったから。
 あんな風にうっとり語っていた夢見がちなプランを叶えたい相手は、きっと私じゃない。なら、一思いに突き放してくれたらいいのに。そうすれば諦められるのに。優しいサンジくんがそんなことするわけないと知ってるのにそんなことを思ってしまう醜い心が嫌で唇を噛み締めた。