タイトルを考えるのが死ぬほど苦手

 
2021/08/12


「サンジくん」

 船が平和な時ほど忙しいサンジくんに声をかける。どんなに忙しくても女の人の声を絶対に聞き逃さないサンジくんはほんの少し控えめだった私の声にもすぐに反応して大量の洗濯物を抱えながらもぐねぐねと愛情表現たっぷりに振り返ってくれるから、そんな人の手伝いをしたくなるのは当然で。

「その洗濯で最後?」
「うん、あとは干すだけだよ」

 十分にくねくねして満足したのか太陽を背に爽やかに笑うサンジくんに手を伸ばす。エッ、ハグ?!と瞬時に目をハートにしてものすごい速さで私に近寄ってきたサンジくんに思わず苦笑した。

「お手伝い」
「ええ?! レディにこんなことさせられないよ!」

 どんな悪虐非道なことを頼んでしまったのかと思うほど悲壮感あふれる拒否に唇を尖らせれば、拗ねるレディも可愛らしいねとくねくねするから暖簾に腕押し。仕方がない。レディ至上主義のサンジくんにそんなことを言っても手伝わせてもらえるなんてはなから思ってなかった。だからって今日は諦めない。

「手伝わせてくれたらなんでもしてあげる」「ナンデモ?!」

 何を想像したのか一拍置いてたらり、とサンジくんの鼻から血が出てきて笑う。まあ別に、サンジくんになら本当に何したっていいんだけど。妄想の海に飛び込んだまま帰ってこないサンジくんをぼんやり眺めて待つ。

「イヤッいやいやいや、おかしいだろなんでおれが手伝ってもらうのにおれがご褒美もらえるんですか?!」

 あ、帰ってきた。両手が塞がっているせいで鼻血を拭うこともできないサンジくんが詰め寄ってくるのに小さく笑って代わりに鼻血をティッシュで拭ってあげる。ありがとう、と照れくさそうにはにかんだのも束の間、なんで?!とまた混乱し出して忙しい人だなあなんて小さく笑って。

「別にサンジくんにはなんのデメリットもないんだから気にしなくたっていいじゃない」
「それはそうなんだけど! いや、そもそもこれはおれの仕事だし」
「サンジくんの仕事はお料理でしょ?」

 私の反論にもごつく姿が可愛らしくていじめたくなるのをどうにかおさえてまた手を伸ばす。手伝わせて、と言葉にすれば私の意志の強さに観念したのか、おねがいします……と本当に申し訳なさそうな顔でほんの少しだけ分け与えてくれた洗濯物に頬を緩ませる。9:1な分け方だったけど、サンジくん相手ならこれでも善戦した方。

「ありがとう」
「お礼言わなきゃいけないのはおれでしょ……。ありがとう、レディ。終わったらスペシャルデザートにスペシャルドリンクをご馳走するから楽しみにしててね」

 やった、と思わず喜色ばんだ声が心から漏れる。私のそんな浮かれた様子を見て申し訳なさそうだった表情がようやく緩んでそれにもホッとした。

「それで、サンジくんはなにしてほしい?」「ギャッあぶね!」

 機嫌良く隣に並んで張られたロープに洗濯物を吊るしていきながら問えば素っ頓狂な声をあげてひとりドタバタと洗濯物の山を落としそうになっていて笑う。器用に長い足で甲板に落ちる前に全て回収しきってホッとしつつも呆然とした表情で私を見つめる姿ににっこり微笑んだ。

「なにしてほしい? なんでもいいよ」
「な、な、な、な、なん、なんで」
「さっき何想像してたの?」

 白い肌がボンッと発火しそうなほど真っ赤になったサンジくんに問いかける。

「ささささっき?! べべべつにそんなおれはべつにやましいことなんてかんがえてません!!!!」
「やましくないなら教えてよ」「!!?!?!」

 面白いくらいに顔を崩壊させて動揺するサンジくんを横目に一枚一枚少ない洗濯物を干していく。サンジくんは洗濯物を抱えたまま目を白黒させてどうにか言い訳を考えようとしていて、その隙にこっそり洗濯物を奪っては干して少しずつ減らしていく。ちょっと目論見とは違ったけどサンジくんのお手伝いができることに頬を緩ませた。

「何想像したの? サンジくんになら本当に何したっていいんだよ」

 言った瞬間、あ、これ、ドクターストップかかるかもしれない、と気付いても時既に遅く、蚊の鳴くような微かな声で勘弁して……と呟いたサンジくんが、たらりと鼻から血を出してふらついてしまった。