タイトルを考えるのが死ぬほど苦手

 
2021/08/15


 久々ののどかな島でナミちゃんやロビンちゃんともわかれてぷらぷらと散歩をしていたのが駄目だったんだろうか。いつも海軍やら他の海賊やら、命の危機を感じることだけが警戒対象だった。普段悪魔の実の能力者やら海軍に捕まることだけを警戒していて、普通の女性としての警戒をすることがすっぽりと頭から抜けていた。
 目の前に立ってぺらぺらと話し続ける男を眺めてため息をつく。最初は親切な男の人だと思っていた。観光に来たならあそこやあそこがおすすめだよ、だなんて、島を愛していることがよくわかる熱のこもりっぷりで。だけど徐々に会話の流れが島から外れていって私のことになっていたときにはもう手遅れで、逃げるタイミングを逃してしまっていた。どうもご親切にいろいろ教えてくれてありがとうさようなら、と今すぐにでも口にしたいのにそれを勘付いているのかぺらぺらと止まらないお喋りに口を挟む隙がない。
 海軍や海賊相手の方がよっぽど楽で困ってしまう。だって別にまだ何かをされたわけじゃない。それこそまだバレてはいないもののこちらは海賊という負い目があるから騒ぎなんて起こさずどうにか愛想よく切り抜けてしまいたいのにどうすることもできずにへらりと愛想笑いを浮かべるしかできなくて困る。どうしよう。
 ちらりと視線を彷徨わせれば、ばちん、とひとつの目と思いきり視線が絡んで思わずホッとする。私を認識するや否や目をとろけさせて、眼中になかったのかもう一人の存在に一拍置いてから気付いた瞬間物凄いスピードで駆け寄ってきたサンジくんに頬が緩む。

「レディ!」

 ぐにゅん、と軟体動物かのようになめらかに私と男の人の間に立って私を守ってくれるナイトにようやく肩の力を抜いた。さっきまでぺらぺらと流暢に喋っていた男の人も突然の乱入者にぽかんと間抜けに口を開けて固まっている。

「ごめんなさい、彼氏がヤキモチを妬いてるからそろそろ失礼させてもらいますね。色々ご親切に観光できるところを教えてくれてありがとう」

 サンジくんの登場によって少しだけ付け加えたけれど、ずっと用意していた言葉をようやく紡げてホッとする。するんとサンジくんの腕に腕を絡めてにっこりすれば未だにサンジくんの登場に目を白黒させているのか、曖昧な相槌しか返ってこなくて、だけど却って都合が良い。逆上されたりトラブルにならずに済んだことにほっとしながらぐいぐいとサンジくんを引っ張りその場を離れた。

  ▼▼▼

「ありがとう、サンジく、……大丈夫?」

 あの男の人から少し距離をとったところでお礼を言いながら顔を上げればだらだらと鼻血を垂れ流しているサンジくんに一瞬悲鳴をあげそうになったけどどうにか抑えられた自分を自分で褒める。私が絡めている腕とは反対の左手で鼻を抑えているものの手が真っ赤に染まっていてあまり意味をなしていない。

「かれ、かれし、おれがれでぃの、かれ、」
「……トラブルを避けるためのフリだよ?」
「ああいや、わかっ、わかっててもはかいりょくがすごくて、」

 目の中にハートが見えるくらいとろけている目が私を見下ろしていて苦く笑う。

「幸せすぎる……永遠に続いてくれ……」
「でも私はサンジくんのこと殺したくないから……」
「ウワァン!!」

 止まる様子のない鼻血にきちんと理由を紡ぎながら絡めていた腕を離して一歩距離をとった瞬間崩れ落ちて今度は目から液体を流し始めたサンジくん。ひどい絵面。鼻血はショックで止まったっぽいけど今度は水分を枯らしてしまいそうな勢いで涙を流すから隣にしゃがみ込んで背中をさする。やさしい、すき、女神……?と嗚咽をこぼしながら呟いていて思わず笑う。
 さっきの男の人の方がまだスマートに私を褒め称えてくれていた。だけど私はこの、大袈裟でみっともなくてかっこわるいけれど心からの賛美が癖になってしまっていて、サンジくんからのお褒めの言葉じゃないと心がときめかないようになってしまった。責任を取って欲しいのに、こんな程度で鼻血が出てしまうサンジくんに私だって好きだよと伝えてしまえば本当に殺してしまいそうで、いつまで経ってもこの距離から抜け出せない。