タイトルを考えるのが死ぬほど苦手

 
2021/08/16


 いいな、と思ってしまったのは贅沢なないものねだりで。きっと向こうからすれば私の方をいいなと思ったりすることもあるんだろう。サンジくんとの買い出し(なんて言いながらサンジくんは私に荷物を持たせたりなんて絶対にしないから私はひょこひょこと隣をついて歩くだけ)の途中で値引き交渉をしているサンジくんと違ってただ突っ立っているだけの私はとても暇で視線をきょろきょろと彷徨わせていたときだった。ふとその男の人に視線が止まったのはそわそわと忙しなく自分の腕時計と、髪や服を整える姿が目に付いたから。何をそんなにそわそわしているんだろうと思えばすぐに答えがわかって、いいな、と思ってしまった。パッと男の人の顔が輝いたかと思えば女の人がとても可愛らしい笑顔でそばに駆け寄って「ごめんね、待たせて」「いや、待ってないよ」そんなやりとり。デートだ。お互い照れくさそうに、だけど幸せがだだ漏れなのが伝わる微笑みを浮かべて手を繋いで雑踏に消えた。
 待ち合わせ。
 私とサンジくんは、同じ船の一員で、今の我が家はあの船だ。同じ船に住んでいるのだから、おはようと朝一番に挨拶するし、おやすみと言い合って部屋に戻る。それだって十分羨ましがられる環境で、だけど、わかっていてもああいうふうに待ち合わせている光景を見て羨ましいと思ってしまった。

「レディ?」
「あ、ごめんね、次のお店?」

 サンジくんの声に飛んでいた意識を元に戻す。慌てて振り返れば不思議そうに首を傾げていてなんでもないよと首を振る。待ち合わせはできないけど、こうして連れ立って歩くことができる。それだけで十分幸せなはずで。

「何か欲しいものでも見つけた?」

 私が見ていた方にサンジくんが視線をやってもそこは雑踏で何も見つけられない。

「ごめんよ、ほったらかしにして。もう買い出しはこれで終わりだから次はレディの行きたいところに行こう」

 よっぽど物欲しそうな顔でもしていたんだろうか。気を遣ってくれるサンジくんに申し訳なくなって思わず口を開く。少し恥ずかしいけど、サンジくんの表情を翳らせてまで隠し立てたいことでもない。

「ううん、違うの。ちょっと、さっき待ち合わせをしてる恋人を見つけて、いいなって思って見てただけ」
「いいな、?」

 ぴんときていないサンジくんに頬が緩む。

「待ち合わせてデートするのって楽しそうだなって思って」

 重ねて言えば途端に難しそうに眉を顰めたサンジくんに首を傾げる。なんでも女の人に同意するサンジくんにしては珍しい反応が不思議で見上げれば、うーんうーん、と難しそうに唸っている。

「どうしたの?」
「おれがそばにいないときにレディが変な野郎に声掛けられたり見られたりするのが嫌……」

 促せば、うぐぅ、と唸りながら告げられた言葉に瞬く。

「すんげェ自意識過剰なこと言っちまうけど笑わないでくれる?」
「うん」
「レディがいつもかわいくてきれいで女神なのは自然の摂理なんだけど、おれと出掛ける時のレディって、ほら、いつもよりさらに可愛くおめかししてくれてるだろ? してくれてるよね? おれの勘違いかな、いや勘違いじゃねェ。今日だってレディはめちゃくちゃかわいい。その服だって初めて見る服だし、そのアクセも初めて見た、化粧の感じもちょっと違う、あとこれは昨日の夜から思ってたことなんだけどシャンプーかリンス変えた? すげェいい匂い。おれと出掛ける日の前からパックとか、そういう、男にはよくわかんねェけど手間暇かけて可愛さを磨いてくれてるわけじゃん。そんなおれのために可愛くなったレディをほんの少しでもひとりにしたくねェから、ちょっと、……いやだ」

 サンジくんの口から滝のように流れ出る賛美に思わず顎の力が抜けて間抜けに口が開いた。ゆっくり頭の中で言われた言葉を整理してじわじわと身体中が火照る。ないものねだりなんてしてる場合じゃなかった。サンジくんはいつだって私を一番に考えてくれていて、普段の私と、勝手に買い出しまでデートに含めておしゃれをしてる私の違いに気付いてくれていて、なのにそれ以上を望むだなんてどうかしていた。だけどあまりの直球熱烈な言葉の数々にどうすることもできなくて、ただ真っ赤に突っ立ったまま動けない。

「でもレディがどうしても待ち合わせてデートしたいなら、その、うぐぅ、」
「……わ、」

 結局私に甘いサンジくんが唸りながらも私のお願いをどうにか叶えようとしてくれようと言葉を紡ぐ前に意地で体を動かしてサンジくんのスーツの裾をつまむ。

「私もかっこいいサンジくんひとりにさせたくない、から、やっぱり待ち合わせはしなくていい、です」