タイトルを考えるのが死ぬほど苦手
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2021/08/17
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食ってみてェな。
そう呟いたおれに、ヒッ、と声を上げたのは我らがドクターチョッパーで、おれの手のひらに乗っていた赤だか青だか紫だかよくわからない色をした実を人型化して瞬時に取り上げられてしまった。島の人たちが食ったら死ぬって言ってただろ!と泣き怒るチョッパーに心の底から謝りながら宥める。懇々と説教されて反省したのを見届けた瞬間泣き疲れたのか眠ってしまったチョッパーをボンクに寝かせてタバコを咥えながらキッチンに戻ればそこには麗しのレディ。飲み物を片手に読書する姿は知恵の女神のように美しくくんにゃりと体が溶けた。そんなおれを見て呆れたように笑う姿もまた愛らしい。
「チョッパーに叱られてちゃんと反省した?」
「しました。ごめんね、いや、食ってみてェなとは言ったけど本当に食う気なんてなくて……だけどこう、ちょっと、コックとしての知識欲が……」
「まあ、その実がこの世で一番美味しすぎるせいで何を食べても満足できなくなって他のものが食べられなくなっちゃって餓死しちゃう、なんて聞いたら確かにどんな味なんだろうって気にはなるよね」
不思議なことがたくさん起こる海だ、そんな実があったって不思議じゃない。その恐ろしさを身を持って知っている島民たちは一度その実を根絶やしにしようとしたことがあるらしいけどどう頑張っても毎年綺麗に実をつけてしまうらしい。諦めて厳重に保管することにしていたところをおれたちが引っ掻き回してしまったせいで(まあ結果的に島民たちに感謝されることも色々あったが)ルフィの視界にあの実が入ってしまったのが運の尽きで。思い出して、あれ、と首を傾げる。
「そういやルフィ、なんでもかんでもすぐ口に入れちまうくせにあの実だけは勝手に食べなかったな。……野生の勘で危ねェことがわかったのか……?」
一人勝手に大暴れして戻ってきたルフィが間抜けに忘れてたと呟いてポケットから出してきた実。とりあえず食い物っぽかったからサンジなら美味くしてくれると思って、と渡されたあの実。美味くしてくれるも何も、そのままでこの世で一番美味しいとされる実らしいのに。本当に暴れ回るのに夢中で忘れていただけなのか、それとも本能で危険なことがわかったのか、運の強い船長を思い出して苦笑していれば、麗しのレディがくすくす楽しそうに笑っていて首を傾げる。ぱたん、と本を閉じてちょいちょいと手招かれて秒速で近付く。隣に座って、なんて微笑まれれば断る理由なんてなくて目をハートにして隣に座った。
「ルフィが食べなかった気持ちが私にはわかるよ」
「え?」
楽しそうに笑っておれの手を取るから心臓が高鳴る。急なご褒美と、レディの言葉の意味がわからなくて言葉が漏れた。
「もしサンジくん以外の誰かがあの実を食べてみたいな、って言ったとしてもチョッパーはあんなに怒らなかったと思う。まあ確証がないからもし本当に食べようとしたらきっと医者としては止めるだろうけど」
「……なんで、」
「だって私たちはサンジくんのごはんを食べたことがあるもの」
「え」
両手を取られてにぎにぎと感触を楽しむように触られて、レディの言葉に心臓が訳もわからず跳ね上がる。
「この世で一番美味しいのはサンジくんの料理だから。きっとその実を食べたとしてもサンジくんの料理が食べられなくなっちゃうなんてことはないし、私たちが餓死することはない。だから私たちはあの実を食べても何も変わることはないと思う」
言葉をだんだん脳が理解し始めてじわじわと体温が上がっていくのを自覚する。嬉しいやらなにやら訳の分からない感情でじわりと目が潤んだ気がしてそれを追いやろうと瞬きが増える。
「ルフィもきっとそう。野生の勘は野生の勘でも危険だからとかそういうんじゃなくて、そのままの実に魅力を感じなかったんじゃない? だってこの世で一番美味しい料理の味はもう知ってるもの」
楽しそうに、愛しそうに落とされる言葉の数々に、レディの美しさに体が溶けてしまう時なんかよりよっぽどどろどろに溶けていくような気がして、だけど両の手はしっかりと形状を保ったままだからレディはおれの手を掴めている。そっと宝物を持ち上げるかのように優しく両手を持ち上げられて、人形のように固まってしまったおれはされるがままにそれを見つめるだけしかできない。
「私たちはみんなサンジくんのご飯が大好きなの、いつもありがとう」
レディの顔まで持ち上げられた両手に、ちゅ、ちゅ、と温かく柔らかな感触が落とされて、くらりと頭が揺れた。
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