タイトルを考えるのが死ぬほど苦手

 
これのサンジくん視点
2021/08/18


 向日葵に吸い寄せられるような蜜蜂のように自然に視線が動いてぱちん、と目があった瞬間、ずっと抱えていた色々な何かが弾けた。見つけた。レディ、と情けない声が漏れた。見つけられたらもっとスマートにそれこそ絵本の中のプリンスのようにかっこよくレディの手を取るはずだったのに。目があった瞬間、20年時間が巻き戻ったのかもしれない。ずっと考えていた話したかったことは頭から零れ落ちてしまって、ただひたすらレディが愛しいという感情だけが身体中を駆け巡って今にも熱に浮かされて溶けてしまいそう。
 20年経ってもレディの美しさは変わらなかった。いや、変わらないというより、もっと美しくなっていて言葉通り輝いて見える。ずっとずっと、想い続けていた。幻じゃない。夢じゃない。……夢じゃない? 本当に? ずっと探し続けていたのに見つからなかった。なのにこんな、ルフィのいつものとっぴな行動で偶然立ち寄った島の買い出しの途中にふらりと見つけてしまうなんて奇跡が、現実だという確証はどこにもない。
 ふ、とレディが頬を緩めておれから視線を外して前へ進む。そう、その、前をまっすぐ見つめる瞳が好きだ。だけど今は前を見る君を見るのが悲しい。おれは君から視線を外せないのに。外したくないのに。だってようやく会えた。夢なら夢で、どうして視線を逸らすの。おれの都合の良いように笑顔で駆け寄ってくれてもいいじゃないか。悲しくなって、だけどいつも都合良く回らないのが現実で、ということはやっぱり夢じゃない、はず。くるくるくるくる思考を巡らせてようやく足が動き出す。

「待って、レディ、ようやく見つけたんだ、逃げないで」

 おれから離れていこうとするレディの手をそっと引いてレディの体温に胸がじわりと暖かくなる。そっと引いたつもりだったのに胸の中に飛び込むほど勢いがついてしまったことに申し訳なく思ったけど、腕の中に閉じ込められた現実にようやく頬が緩んだ。かわいい、きれいだ、すきだ、いとしい。

「レディ、ああ、夢じゃねェ、やっと会えた、おれのプリンセス」

 腕の中できょとんとしながらおれを見上げるレディに感嘆の声が自然と漏れてしまう。だって、本物だ。夢じゃなかった。現実だ。あんなに探してたのに、偶然立ち寄った島で運良く出会えるなんて。

「レディだなんて、もうそんな歳じゃないの。でもありがとう、素敵な紳士さん」

 うれしい、うれしい、うれしい。
 ふわふわと浮かれていた思考が突き付けられた言葉で地に落ちる。他人行儀な言葉。おれを認識してくれていない言葉。ただでさえ40も越えたおじさんが浮かれていた姿もみっともなかっただろうに、悲しくて、寂しくて落ち込む姿はもっとみっともなくて、惨めで。

「レディはおれのこと、忘れちゃった?」
「え、」

 レディは20年経ったってずっと可愛いままなのに、おじさんが子どものように拗ねたってちっとも可愛くない。おれだって20年前ならまだ可愛さアピールでどうにかゴリ押しできたかもしれないのに。……ああいや、だめだ、20年前に何も出来てないから20年ずっと後悔してたんだ。おれは何歳でもレディの前じゃ情けない男になってしまう。少しも取り繕えない。

「20年、ずっと後悔してたんだ。おれは海賊なのに、どうして欲しいものを我慢してたんだろうって。海賊は海賊らしく、お姫様を攫えばよかったのに」

 忘れられているなら悲しいけれどそれはそれで仕方がない。

「おれはこの20年、君のことを忘れたことは一度もなかったよ」

 覚えていないならおれが話すから。君と初めて出会った時のことも、君を口説けなかった情けない話も、君と別れることになったあとに一人ただ泣いた話も、君と別れたあとにたくさん経験したいろんな話も、全部、全部話すから、おれのプリンセスになってよ。