タイトルを考えるのが死ぬほど苦手

 
これのクロコダイル視点
2021/08/24


「あだっ」

 とすん、と下方で何かがぶつかって驚く。驚いたことに驚いた。このおれが、何かにぶつかる? そんなことがあるわけがない。あるわけがないことが事実、起きていてその正体を目に入れようと視線を下げれば間抜けにも顔から突っ込んできたのか女が鼻をさすりながら一歩後ろに下がっていて瞬いた。
 赤くなった鼻をおさえながらゆるゆると持ち上げられた視線と絡んでもなんの音も出すことができなくて訳の分からない感情に心臓が揺さぶられる。常に何をも警戒して生きているおれが、無防備に何かにぶつかるはずもない。それこそおれにとってなんの脅威もない犬猫の気配だって全てが敵だと思って生きていた。それなのに、その鼻が赤くなった原因は、このおれとぶつかったからで。
 睫毛を揺らして瞬きを繰り返す姿に何も言えず、逸らされた視線につられるように視線を動かしてまた固まる。鉤爪が中途半端に女に触れるように向かっていて、眉を寄せた。なんだこの手は。ぶつかっただけならまだ気が緩んでいたのかとそのぶつかった対象を問答無用でこの鉤爪で刺し殺すなり、砂にするなりすればいい。それすらできずに中途半端に持ち上がった鉤爪は、そもそもが刺し殺すために振り上げたにしては不可解な位置取り。
 そうだ、まるで、助け起こそうとするかのような、────
 瞬間、思考回路が弾けて目を覆う。ああ、なるほど、そういうことか。くつくつと喉の震えが止まらない。目を閉じていても側にある穏やかな気配が怯えに染まるのが手に取るようにわかる。覆っていた手を退けて視界に入ったのは想像通り、怯え固まっていて喉を鳴らす。今から紡ぐ言葉が余計に目の前の女を怖がらせるとわかっていても、もう逃がす気はないのだから時間はたっぷりある。

「……覚悟するんだな、お嬢さん」

 びく、と揺れた肩にまた喉を鳴らした。お前が気を付けて前を見据え目の前のおれにぶつかりさえしなければ気付くことはなかった。おれに気付かせたのはお前だ。