タイトルを考えるのが死ぬほど苦手

 
2021/09/10


「レディ」

 驚いて瞬いた拍子に耐えていた涙が零れ落ちた。驚かせてごめんね、と画面越しでしか聞いたことのなかった甘い声が優しく降ってきて首を振る。声を出してしまえば涙に濡れた声になってしまいそうできゅっと唇を引き締めた。ナミちゃんの大事なみかん畑を勝手に間借りさせてもらって隠れるようにしてうずくまっていたのに見つかってしまった。

「大丈夫、帰れるよ」

 サンジくんの優しさはずっと、ずっと知っていた。その優しさは、おれはレディにしか優しくしない、なんて豪語しつつも結局は老若男女に優しすぎることも知っている。だからこんな、別の世界から来ただのなんだの訳の分からないことばかりのたまう、急に空から落ちてきた人間にだって分け隔てなく優しい。私が女だから目に見えて言葉も態度も甘く優しいけど、今この場にいる誰かが私じゃなくて男だったとしてもなんだかんだ率先して世話をしてくれるのはきっとサンジくんだ。
 大好きな麦わらの一味の船に運良く落ちて、面白いことが大好きなルフィの琴線に触れて保護してもらえた。私以上に私の言うことをグランドラインで起きることだから、と受け入れてくれる懐の広さ。何をすればいいのかなんて全く分からずただおろおろしているだけの私を笑わせ楽しませてくれ、そして元の世界に帰る手立てを探してくれているみんな。海賊船だから命の危機に直結する怖いことも多いけど、優しくて、楽しくて、居心地が良い世界。みんなと出会えたことは奇跡で、だけどやっぱり、元の世界が恋しくて、みんなが寝静まったふとした瞬間に鼻がつんとして涙が堪えきれなくなる。

「大丈夫、ロビンちゃんがきっと足掛かりを掴んでくれる。ロビンちゃんがとっかかりを掴んでくれたらあとはもう突っ走るだけだ。おれたち麦わらの一味がついてる」

 こつ、と心地良い靴音を鳴らしてそっと私の隣に座り込む。ふわりとたばこのにおいが鼻をくすぐって、画面越しや紙面上じゃ知らなかったサンジくんの匂いという情報に胸がきゅっとつまされる。

「君は知ってるんだろ? おれたちにできないことはねェんだ。家が恋しくて、寂しくて泣いたっていい。だけどひとりで隠れて泣くのはこれが最後にして。ナミさんやロビンちゃん、誰でも良い、ひとりで抱えこむのだけはやめてくれ。お願いだ」

 ほろほろと零れ落ちる涙を、所々に小さな切り傷や火傷のある節くれだった男の人の指が私の頬を撫でてぬぐってくれる。この感触も、知らなかった。私の知る世界には帰りたい。恋しいから、ホームシックに嘆いてうずくまっている。だけど画面越しや紙面上じゃ知らなかった優しさに触れてしまえばこの世界とお別れすることも悲しくて、余計にどうしていいかわからなくなる。くるんとしたチャームポイントが悲しげに垂れていて、私以上に私のことで心痛めてくれているサンジくんに、どうにか涙を止めたくてもどうしようもなくて。
 家に帰りたい。けど、せっかく出会えたみんなと離れたくない。たばこの匂いとこの料理人のあたたかな手にもう二度と触れられなくなるのは悲しくて、ぐちゃぐちゃになった気持ちがまた涙を溢れさせた。