タイトルを考えるのが死ぬほど苦手

 
2021/09/23
現パロ的ななにか


 今までのらりくらりとサンジくんの大袈裟な口説き文句を交わしてきた。一度も本気で受け取ったことなんてない。だって初対面が初対面だった。ナミちゃんに跪いて女神だなんだと褒めそやし素気なくかわされれば次はロビンちゃんに傅いて天女だなんだと褒めそやしていたから、ああなるほど彼はこういう人なんだな、とインプットされてしまった。めんどくさそうにため息を吐きながらナミちゃんに「これ、サンジくん。こんなだけどまあ、悪い人ではないから」と紹介され、サンジくんの目に私が映った瞬間私にもその美辞麗句が流れるように浴びせられた。見る目のあるナミちゃんやロビンちゃんからの紹介だから、確かにちょっと変な人だけれど悪い人ではないと警戒を解いた。それに幾度か顔を突き合わせて自分の目で見ても確かに女の人を見ればすぐに体をとろけさせて口説きにかかるけれど根はとても優しい純粋な男の人だと知ったから好ましく友達付き合いを続けていた。
 サンジくんが連れていってくれるお店はどこも極上で、色々な口説き文句が上下に挟まれるけれど要約すれば敵情視察に付き合ってほしいというお誘いを断ったことなんて一度もなくて。今日もその敵情視察で個室のある隠れ家のような素敵な佇まいの店で舌の上でとろけるようなご馳走をお腹いっぱい満足に食べ終えてあの料理が美味しかっただのウチの店でもこういうの出そうかなだのいつものような会話をしていたはず、なのに。
 目の前のテーブルに置かれている書類はなに。

「あの、レディにおれの言葉がその、全く届いてないなって思って、その……おれのことが嫌いとかならその、おれもがんばってあきらめ……あきら……いやまあ諦めるのは無理なんだけどレディに迷惑かけたりしないようには頑張るし、でもそもそもそういう段階ですらなくって信じてもらえてないから、まず信じてほしくて」

 サンジくんがもごもごとつっかえながらもまっすぐ伝えてくれた言葉を目を見て聞きたい気持ちはあるけれど、テーブルに置かれた書類から目が離せない。

「おれ、本当に君のことが大好きで、だからその、確かにおれの日頃の行いが悪いせいだし自業自得なんだけど、君に紡いだ言葉は全部本気で、結婚、したいくらい、すきで」

 テーブルの上に広げられてるのは婚姻届。サンジくんの名前と、住所と、判子。それだけなら、ああ、また誰にでも同じようなことを言って見せて口説いてるんだろうなあ、ってほんのり笑って聞き流していた。だけどその紙に記入されているのはサンジくんの名前だけじゃなかった。証人の欄に、ナミちゃん、ロビンちゃん、ルフィ、ウソップ、ゾロ、いつものメンバーの名前がそれぞれ所狭しと記入されていて瞬く。

「本気だってことを、知ってほしくて」

 ナミちゃんや、ロビンちゃんが意味もなくこれに記入するわけがない。人の気持ちを遊んだりからかったり悪戯でこんなことをするわけがない。なら、みんなはとうにサンジくんが本気だっていうことを知っていて、私だけが本気だと一度も信じなかった。サンジくんはそういう人だからと、サンジくんの言葉をずっと無視して傷付けていた。これまでのことを考えれば考えるほどずきずきと心臓が痛んで涙に声が震えながらもいくら言っても足りない謝罪の言葉が自然と口からこぼれた。

「ごめん、なさい」
「……そうだよな、ごめん、急にこんな重たいこと言われてもこわいよね、ごめん、レディに迷惑かけたりしないからこれからも友、」

 食い入るように「妻」の部分だけがごっそりと空白の紙を見つめていればすらりと長いのにどこかごつごつとした料理人の指がその紙を引っ張っていこうとして、ずっと固まっていた体が反射的に動いて止める。え、とサンジくんの空気の抜けるような声がして、今度は自分の意思でぎゅ、とその紙が皺にならないように気をつけながら引き寄せる。するりとサンジくんの指から引き抜けたそれを自分の近くに引き寄せたまま、恐る恐る顔をあげた。絡まる視線に喉の奥がキュッとしまった感覚がしたけどどうにか口を開く。私の謝罪が、勘違いされている。訂正しなくちゃいけない。

「いま、今まで、サンジくんの言葉、ちゃんと聞いてなくて、信じてなくて、ごめんなさい、傷付けて、ごめんなさい」
「……っあ、そ、そっち、の、ごめん、……? そんな、いや、そんなのおれの自業自得だから、レディが気にすることなんてひとつもないんだよ」

 気にしないで、と困ったように笑う姿はすごく健気で胸がつまる。

「その、サンジくんのこと、そういう目で見たこと、なくて、これ、ここ、書けるかって言われたらまだ、よくわかんないんだけど、ゆ、許してくれる、なら、今からはサンジくんの言葉、全部ちゃんと聞き逃さないから、だから、」

 今まで全く信じていなかった罪悪感と、こんなにもまっすぐに愛情をぶつけられていたという事実に思考が溺れてどうにか言葉を吐き出そうとしてもしどろもどろになってしまう。だから、その、と何かを言いたいのに何も言葉が浮かばなくて途切れてしまった音に私が唇を噛んだのと、サンジくんが口を開いたのはほぼ同時、で。

「結婚を前提にこれからもレディを口説いてもいい?」

 小さく頷けば愛しいものを見つめるかのように目をとろけさせて嬉しそうに笑うから全身の体温が急上昇した。