タイトルを考えるのが死ぬほど苦手

 
2021/09/24


 いくらおれがヴィンスモーク・サンジは十三年前に北の海で死んだと叫ぼうが、ジェルマ、ヴィンスモークの名前がいつまで経っても呪いのようにこびりつく。ぷち、と音がして、抜けるほど髪の毛をぐしゃぐしゃに抱えていたことに気付いて手を下ろす。お母さんによく似た金色の髪が数本、指に絡まっていて苦笑した。

「……サンジくん?」
「、レディ?」
「真っ暗だったからいると思わなくてびっくりしちゃった」

 確かにキッチンはもう灯りを消してただぼんやり暗闇の中壁にもたれかかっていた。誰もいないと思って扉を開けておれが壁に突っ立っていたから驚かせてしまったかもしれない。ぐ、と髪の毛の絡んだ手のひらを握り込んでズボンのポケットに突っ込んで誤魔化す。

「あとはたばこで一服するだけだったから灯りはいらないと思って消しちったんだ、ごめんよ。レディはどうしたの? 眠れない? ホットミルクでも作ろうか」

 笑って言えばどこか不思議そうに首を傾げるレディにおれも首を傾げる。

「ううん、大丈夫」
「でもここにきたってことは、喉が渇いたか腹が減ったんじゃ……」
「……そうだよね……」

 不思議で尋ねればレディの方が不思議でたまらないといった表情で頷きながら唸るから意味がわからなくなる。寝ぼけてるんだろうか。

「あっ、わかった」
「?」

 灯りの消えた暗いキッチンがパッと輝いたと勘違いするほど晴れやかな笑顔を唐突に向けられておれだけが不思議に取り残されたまま。

「本当に喉も乾いてないし、お腹も空いてないの。なんだか今日はサンジくんが足りなかったから、それだと思う」

 レディの言葉をうまく脳が処理できなくて口が間抜けに開いたまま固まる。

「でもほら、灯りも消してたし、今は運良く会えたけどおれが部屋で寝てる可能性の方が高かったのに、」
「? だってサンジくんと言えばここのキッチンだもの。サンジくんが部屋で寝ててもいいの。ちょっとサンジくんの空気に触れたかっただけだから」

 おれの居場所をここだ、となんの躊躇いもなくきっぱり言い切るレディに、暗い考えが一瞬で上書きされる。そうだった、世間がおれをどう呼ぼうが関係ない。レディに、仲間に、麦わらのコックだと、ここにいるのが自然だとそう思われてるなら、こんな幸せなことは他にない。