タイトルを考えるのが死ぬほど苦手

 
2021/09/29


 ころころころころ、かつん。
 小さく光る何かが転がってきたかと思えば足先にぶつかって勢いを散らして止まった。首を傾げながら拾えばほんの少し傷が付いていて、だけどきっと大事にされてきたんだろうなあと思える指輪、で。太陽に掲げて見れば内側にfrom、

「──レディっ! そ、それッ!」
「サンジくん」

 イニシャルと合致する声が慌てているのが聞こえて振り返る。そうか、これ、サンジくんのか。……サンジくんが、大事な人に贈る、指輪、か。思わず体が強張った拍子に指輪を掴んでいた指先にも力が入って慌てて緩めた。そんなことしなくたって私の力程度で指輪がひしゃげることなんてないのはわかってるけど、私の心に黒いもやが広がる。

「だめだよ、大事なの落としちゃ」
「いやッその」

 どうぞ、と醜い心を押し隠して笑顔を浮かべる。二年、離れてたんだもの。恋をして、愛を育むには十分すぎる時間。これからずっとこのメンバーで旅をする、いくらだって伝える機会はある、なんて慢心した二年前の弱い私がいけなかった。好きだと伝えることもできずサンジくんに大事な人ができてしまったのは悲しいけれど、でも、好きな人が幸せなのは良いことだから。良いことのはずだから。鼻がツンとしはじめた自分に言い聞かせてサンジくんに早く受け取ってほしいと突き出す。なのにサンジくんは視線を彷徨わせるだけで全く受け取ろうとしてくれない。早く受け取ってほしい。そうじゃないと、失恋の涙が今にもこぼれ落ちてしまいそう。

「……サンジくん?」
「あの、その、……み、みた?」
「、……サンジくんのでしょ?」

 from.Sと彫られたのをしっかりこの目で見た。

「あいて、相手は、見てない、の」

 どこか気まずそうに視線を落として言われたけど、見るわけがない。見れるわけがない。S、を視界に入れた瞬間に目の前が真っ暗になった。サンジくんに声をかけられなければ固まったままぼんやりしてたはず。視界に入っているはずなのに脳には届かない拒否反応を示してしまうほどショックを受けた事実に頬が引き攣りそうになる。

「……見てないよ」
「あ、そ、そっかよかった、それ、捨てるやつだからその、ごめん、でも、ありがとう拾ってくれて」
「……捨、?」

 私の差し出すその指輪を気恥ずかしそうに受け取ろうとしたサンジくんの言葉に思わず手を引いてしまった。ぎゅ、と胸元で握りしめて後ずさる。捨てる? 捨てる、って言った? この、私が欲しくてたまらない、from.Sと刻まれた愛の証を? どうして? 二年は、恋をして、愛を育んで、その愛が壊れて別れてしまえる期間? サンジくんからの愛のこもった贈り物が捨てられる。それが私に向けられたものじゃなくても、サンジくんの想いのこもったものがゴミ箱に埋もれてしまうのが嫌だった。
 後ずさった私に驚いたように目を見開くサンジくんに唇を噛み締める。

「…………レディ、ほんとは見たんでしょ? だからおれに意地悪してる?」

 困ったように笑うサンジくんに首を振る。どうして意地悪をする必要があるの。好きな人の愛のこもったものを他人へ向けられたものでも捨てたくないと思っただけなのに。

「……こんな、愛のこもった大事なもの、捨てちゃだめ、だよ」
「捨てなくていいの?」

 優しい声で尋ねられてじくじくと胸を直接刺されているような気持ちになる。だけどそれ以上にこれを捨てられるのは嫌で、もしこのまま会話が続けば今度こそ声が震えてしまいそう。

「じゃあ、受け取ってくれる?」
「?」

 ふ、と優しく笑ったサンジくんが意味のわからないことを言うから思わず間抜けに口が開いた。終わってしまった愛だとしても、サンジくんの大事な気持ちが詰まったそれを捨てちゃだめだと言ってるのに、どうしてそんな横流しみたいな真似をするの。

「二年前に作ったやつだからサイズ合わなくなってて作り直してもらおうと思ってたんだけど」
「??」

 訳が分からなくて固まったままサンジくんを見つめて言葉を聞くしかできない。

「付き合ってもねェのに指輪贈るのも重いかなって引かれるかと思ったけど、やっぱレディは優しいな」

 朗らかに柔らかく笑うサンジくんに何度も瞬く。

「二年前からずっと、ずっと好きなんだ。……受け取ってくれる?」

 頬を僅かに染めて言われた言葉に体が動いてずっと手の中に隠すように握りしめていた指輪をもう一度太陽に掲げて目を凝らす。from.Sそして、to.────

「わたし……?」