タイトルを考えるのが死ぬほど苦手
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2021/10/15
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────ばしゃん!
サンジくんの垂れ下がった目がまんまるに見開いて私を見つめたまま、さらさらな髪の毛を揺らしながら海に落ちていった。落ちていった、というか、突き落とした。サンジくんの胸元を押した両手を見下ろしてそこからあの、知らない香水の匂いがした気がして踵を返す。視界の端にちらちら映るチョッパーや、ウソップの驚いた表情に言い訳を紡ぐ余裕もない。言い訳? 言い訳も何も、飛んで帰ってきたサンジくんがタバコで一息つく間も与えず突き落とした。それだけ。
一目散に洗面所に辿り着いてすることはただひとつで、両手に染み付いたかのような知らないシトラスの匂いを削ぎ落とすこと。かしゅかしゅと泡で出てくる石鹸を手のひらの上にたくさん乗せて、ごしごし洗う。ひたすら洗う。とにかく洗う。じゃあじゃあと勢いよく流れる水に泡だらけの両手をひたして、鼻先に両手を持っていった。すん。石鹸の匂い。と、海の匂い。知らない匂いが消えたことにようやく引き攣った頬が、痛んだ胸が緩んだ気がしたのに外なのに海の匂いが充満していて頭を傾げた。傾げた拍子に鏡に背後の金色が光って眩しさに目を細めたのも束の間その金色がサンジくんだとわかって緩んだ頬が気まずさにまた引き攣る。足を動かして体ごと振り返れば、ぽたぽたと海水を滴らせながら困ったような微笑みをたたえたサンジくんが立っていて口を結んだ。
いつもはさらさらに揺れる髪が、濡れてうねっている。身軽そうな黒いスーツが張り付いていて重たそう。ポケットに入っているタバコだって、私のせいでもう吸えない。謂れのない暴力を唐突に受けた結果がその有り様なのに、私を見る目はかけらも責める気なんてないし、それどころか被害者であるサンジくんの方が申し訳なさそうにしている。口を開いてしまえば理不尽な八つ当たりの原因を声高に叫んでしまいそうで、ぎゅ、とさらに口元を引き締めた。
目をハートにして楽しそうな余韻を残して帰ってきたから。サンジくんのたばこの匂いをかき消すほど知らない香水の匂いがしたから。苦しくて。悔しくて。悲しくて。だから、突き落とした。海に落ちてその、知らない女の人からうつったんだろう香水の匂いが消えてしまえばいいと思ったから。
そんな厄介な八つ当たりを受けて私は謗られて然るべきなのに。サンジくんはそんな気配を微塵も見せず、申し訳なさそうに微笑みながら私に近付いてくる。後退ろうにもすぐ後ろは洗面台で、逃げ場はない。
「レディ、その、これ、レディに似合うと思って買ってきたんだけど、その、……受け取ってくれる?」
俯いて床を睨みつけて、サンジくんの靴が目に入ったと同時に言われた言葉に思わず空気が漏れる。恐る恐る顔を上げれば照れくさそうに頬を染めながら可愛らしい瓶を手にしたサンジくんがいて固まった。
「あっ、まずは謝るべきだよな、ごめん、おれレディを怒らせるようなことしちまったかな……いや、したんだよな、ごめん、……船に登るときにパンツ見えねェかなとか思ったのが口から出てた? いやほんとごめん」
それともあれ、それともこれか、とぽろぽろ出てくるサンジくんの余罪は耳に入ってこない。いや、それも後で問いただしたいけど、私の意識はサンジくんの大きな手にちょこんと乗っかっているお洒落な瓶に釘付けで。石鹸の匂いしかしない手が自然と延びて、蓋を開けた。そこから香る匂いはさっきあんなにも必死で洗い流したシトラス。
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