タイトルを考えるのが死ぬほど苦手

 
2021/10/19


 ふ、と目が覚めて喉が渇いたから水でも貰おうとキッチンへ寝ぼけ眼のまま入って、白い何かが暗闇で蠢いているのを見て悲鳴を上げそうになった。ばくばくと騒がしく動く心臓が口から零れ落ちないように両手でおさえて、驚きでしっかり冴えた目が映したのは大怪我をして保健室で寝ているはずの包帯まみれのゾロ、で。ホッとしたのも一瞬で今度は呆れなのか怒りなのか自分でもわからない感情を持て余しながらゾロに近付く。

「こら」
「おう」

 悪びれる様子なんてかけらも見せずに私のお叱りの一言なんて綺麗に流して酒瓶を傾けている。近付いて、包帯が白だけじゃなくところどころ赤黒く染みが出来ていることに眉を寄せる。血がまだきちんと乾き切ってもいないのに、お酒を飲むなんて。勝手に盗み飲んだお説教はウチの一流コックさんに、絶対安静なのに勝手に部屋を抜け出したお説教はウチの頼りになるドクターに任せることにしてため息をついた。

「お前も飲むか」
「共犯にしようとしないで」
「はは」

 くしゃりと楽しそうに笑うゾロに、無意識に緊張に強張っていたらしい頬が緩んだ。今度こそ本当に安堵してゾロの隣に座り込む。体中包帯だらけで動きにくくて取ろうとでもしたのかほどけている包帯をきゅ、と締め直す。お酒を含みながら、ぐ、とかすかに呻いたゾロに、だけど私は謝らない。機嫌の良いゾロはぼろぼろの体でも楽しげに笑う。

「なァ、祝ってくれよ」
「……いきてて、よかった」

 ゾロの柔らかな声に、じわり、と心臓から足の爪先まで安堵が広がって声が震えてしまう。生きてて良かった。言葉でも、心でも同じことを思って包帯から手を離す。

「二度と敗けねェって言ったろ」
「うん」
「泣くなよ」
「うん」
「ふ、返事だけはいいな」

 水分を求めにキッチンに来たのに、水分を体から出してしまっていては元も子もない。わかっていても涙腺は脳の命令に従ってくれなくてほとほとと頬を濡らしていく。悲しいわけじゃない。だってゾロは生きてる。野望を達成したくせに、いつも負う怪我と同じように寝込んで化け物染みた回復力で一晩二晩で部屋を抜け出してお酒を飲んで、ふらりと喉が渇いて起きた私と他愛のない会話をしている。世界一になったくせに変わらないゾロに安心して、嬉しくて、ほっとして止まらない涙を拭った。

「明日から覚悟決めとけよ」
「……なんの?」

 いつもと同じ、変わらないゾロだけど、いつもよりずっと頬が緩んだままのゾロが急にまっすぐ私と目を合わせて言うから首を傾げた。今までは世界一を追う側だったけど、これからは世界一になったゾロを世界一になりたい誰かが付け狙うから、敵襲が増えることを覚悟しろということだろうか。不思議に思って尋ねれば、一際楽しそうに目を細められて心臓が大きく跳ねる。

「世界一の大剣豪になった男が惚れた女を口説くから」