タイトルを考えるのが死ぬほど苦手
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2021/10/21
かちゃ、かちゃ、と硝子片同士がぶつかる音だけが響く。伏せているサンジくんの表情が金色のカーテンで綺麗に覆われているから全く見えなくて何をどう言えばいいのかわからない。サンジくんの大事な手が硝子で切れてしまわないかハラハラするけど、私が手を伸ばしたりする方がサンジくんは慌てて怪我をしてしまいそうだからじっとそれを眺めているだけ。最後のひとつをつまみあげて、ようやくサンジくんの表情がうかがえるとホッとしたのも束の間いつまで経ってもあがらない顔に頬が引き攣る。
「さ、んじくん」
「うん」
そんなに驚かせてしまったんだろうか。サンジくんの常ならぬ反応に、浮かれたせいでとんでもないことをしてしまったのかと肝を冷やす。そのお皿、特別なものだったんだろうか。一度壊してしまったことの取り返しはつかなくて特別なお皿じゃなくてもしでかしたことに対する申し訳なさに口籠ってしまう。
「その、ごめんなさい、そんなに驚かせると思ってなくて、できるだけ元通りに、」
「……彼氏、できたの?」
「え?」
口籠もりながらも謝罪と反省をどうにか紡ぐ私に唐突な一言が降ってきて思い出す。浮かれすぎて驚かせてしまうなんてかけらも考えずに勢いよく扉を開いて開口一番サンジくんに話しかけた言葉。好きな人と付き合えたの!と興奮しながら扉を開いた。それを掘り返されて、うん、と頷く。そっか、とサンジくんが呟いたのと同時に、ぽた、と床に何かが落ちた音がして視線を動かしてギョッとする。ぽたぽたぽたぽた。とどまることを知らない水滴は俯いたサンジくんから流れ出る涙で、慌ててサンジくんのそばに駆け寄ってハンカチで水に濡れた頬を拭った。
「おめでとう」
ひっ、と嗚咽混じりに告げられた祝いにギュッと身がつまされる。驚かせてしまってサンジくんの手から離れたそのお皿はきっとものすごく特別なお皿だったんだ。それなのに女の子に優しすぎるサンジくんは私のこと責めたりなんかしなくて、だから普通に私と会話を続けようとしてくれてるけど心が追いつかなくて、無惨に粉々になったお皿に涙が溢れてる。そんなに涙が出てしまうほど特別なお皿を私のせいで割ってしまったのだからなじればいいのにできないでいる姿に、怒られるより心臓が痛くなってごめんねと頬を拭いながら何度も謝る。
「ごめん、ごめんね、そんなに特別なものだったなんて知らなくて、こんなの言い訳にもならないよね、ごめんね」
ひっ、ひっ、ととうとう言葉も紡げなくなったサンジくんの手の中にはたくさんの硝子片。誤って手を傷付けたりしないか心配で、涙が流れる頬と手の中を交互に見てはらはらしてしまう。
「レディのこと、は、いつだっ、て特別だって、言ってたよ、おれ、信じてもらえないのも、しかたな、いけど」
ひぐ、と詰まりながら言われた言葉にぽかんと固まる。サンジくんの手の中のお皿だった硝子の話、をしていたはずなのに、急に飛び出てきたレディという単語に瞬く。
「わたし?」
心の中で思ったはずが、ぽろりと口から溢れてしまった。ほとほとに濡れているサンジくんの目と私の目がかち合って、ふたり見つめあって首をかしげた。不思議そうに何度か瞬くうちにサンジくんの涙も落ち着いて、なんだか会話が噛み合ってる気がしないでもないけどとりあえずもう一度、何度でも謝罪の言葉を紡ぐ。
「驚かせてお皿割っちゃってごめんなさい」
「や、それは、別に揺れる海の上じゃいつか割れるもんだし、気にしてなくて、……レディ、好きな人と付き合えたって」
「? うん、ほら、私の島の友達からの手紙、ずっと片想いしてた子が頑張って告白して付き合えたってほうこ、く、が……」
ハンカチをサンジくんに添えながら説明している途中で噛み合わなかった理由を察して体温が上がる。だってその、自意識過剰じゃなければ、その、
「レディ、に、彼氏ができたわけじゃねェ?」
涙に濡れて潤んでいた瞳がぱっと輝いて、頬が緩みきったサンジくんの屈託のない笑顔を真正面からぶつけられて自意識過剰じゃなかったことを悟った。
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