タイトルを考えるのが死ぬほど苦手

 
これの続き別視点
2021/10/25


「……私がサンジくんのページ、作る」

 いつも優しげに垂れ下がっている目をぱちぱち、ぱちぱちと何度も瞬かせて不思議そうにしているサンジくんに私の機嫌はどんどん下降していく。こんなの八つ当たりだってわかってる。わかっててもふつふつと湧き上がる感情は抑えきれなくて、唇を噛んだ。
 一番初めのページが一ヶ月前の日付だったから、こんなに愛の溢れたノートはきっとこの一冊だけじゃなくサンジくんのお城であるキッチンのどこかにこれまでの分のノートがたくさん仕舞われているはずで。みんなの名前がそこかしこに書かれているこのノートに、ただひとりだけ現れなかった名前がある。サンジくんの名前だけが、このノートのどこにもない。そりゃ自分のことは自分がわかってるだろうからわざわざ名前を書かないのはわかってるけど、サンジくんの存在そのものがまるでないかのようにかけらも匂わせない。自分の名前を書くことがなくたって、今日はおれの好物、だとか、今日の味付けはおれ好みにしてみた、だとか、そういうことを書いてたっていいはずなのにそれすらない。全部全部全部、私たちのことだけ。サンジくんに関するメモはひとつもない。
 もしこのノートを誰かこの船以外の人が読むことがあったら、ご飯どきだけじゃない、船での日常がありありと目に浮かぶ。クルーたちの性格だって手に取るように理解できる。こんなにも愛に満ち溢れたノートを読んで幸せにならない人なんていない。
 だけどきっと、これを読んだ人はこの船に乗るクルーの人数を言い当てられない。このノートにはサンジくんの気配が全くないから。サンジくんが書いてるのに、サンジくんがいない。
 サンジくんの指にずっと引っかかっていたままだったペンをするりと引き抜く。だけど、勇んだはいいものの何も思い浮かばない。いつも与えてくれるばかりで、サンジくんの好きな味や、好きな食べ物がパッと出てこない。そのことが悔しくて、また機嫌が落ちていく。

「……サンジくんの好きな料理って、なに」

 え、とまだ戸惑いを隠せないサンジくんが不思議そうな声をあげて、重ねて聞く。ええと、ええと、と視線を右往左往させて考えるサンジくんにまた唇が尖っていく。みんなの好物ならすらすら出てくるのに。自分のこととなると途端に遠慮がちなのかなんなのか、慎ましくなってしまう。みっちりと埋まっているノートの隙間に、サンジくんの好きな料理、と書く。サンジくん。これで、このノートを読んだ人はこの船全員の名前がわかる。

「……最近食べた料理で一番美味しかったの、なに?」

 あまりにもうーんうーんと考え込むから、ほんの少しの助け舟。この間立ち寄った島は料理が盛んだったし、サンジくんだって喜んでいたから、好きな料理は漠然としていて難しくても、最近食べた料理で美味しかったの、まで絞り込めばなにかしら思い浮かぶと思って。考えた通り、うんうん唸って考えていたサンジくんの顔がパッと輝いてきらきらした瞳と視線がぶつかる。

「レディが作ってくれたスープ!」

 ずっと不機嫌な皮をかぶっていた顔がぽかんと間抜けに剥がれ落ちる。そんな私に気付いているのかいないのか、あれ美味しかったなァ、なんてスープの味を思い出しているのか頬に手を当てて幸せそうに笑うから力が抜けて握りしめたペンがノートの上に転がった。