タイトルを考えるのが死ぬほど苦手
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2021/10/26
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キラーは笑わない。笑い声がコンプレックスなんだとすごい仏頂面をしたキッドから聞いたことがある。好きな人の笑顔を見たいと思うのは恋をしている人間ならきっと当たり前の感情で、だけど好きな人の気持ちを優先したいからその気持ちはそっと蓋をした。仲間思いで優しいキラーにそれ以上は望まず今まで通り普通に。
そう思っていたはずなのに、今まで通り、すら望めなくなった。キラーが私を避けている。キラーは聡いから私の恋心に気付いてしまったんだろうか。何も高望みをしてないつもりだったけど、視線すら鬱陶しかったんだろうか。悲しくて涙が出そうになる。いつも悲しいことがあったときはキラーが慰めてくれていた。そのキラーが、私を避けて、私を遠ざけたいなら私は誰に相談すればいいの。
廊下を歩いていて顔を上げた瞬間、ぱち、と目が合う。嫌そうな顔をしたのはキッドで、ぽろり、涙が溢れた瞬間に、ウゲ、と嫌そうな声も聞こえた。けどそんなの怖くない。私が今一番怖いのは、キラーに決定的なことを言われてしまうこと。嫌そうな顔をしつつも結局仲間に甘いキッドは踵を返したりなんかしないから、近付いてもこもこのコートをぎゅっと掴んだ。
「どうせキラーだろ、めんどくせェ」
ぐすっ、と鼻を鳴らす私に心底面倒そうな声が降ってくる。
「……何をした、キッド」
言葉で人を斬れそうなほど冷たい音が背後からして固まる。聞いたことがない、だけど確かにキラーの声。ごつ、ごつ、と重たい音を響かせてキラーが近付いてきてるのがわかる。
「アァ? チッ、めんどくせェな。泣かせたのはおれじゃなくてお前だ、キラー」
「……は?」
冷えた音が落ちて、途端に世界がくるりと回った。がしゃごしゃぐしゃ、いろんな金属がぶつかる音と、その音に体が押しやられる。掴んでいたもこもこはいつの間にか手から離れていて、衝撃につむっていた目を開けば壁。だと思ったのになんだか生暖かい、し、動いてる。ハッとして顔を上げればそこにはキラーがいて、ということは壁だと思っていたこれは服を着ててもわかるキラーの立派な筋肉で、ぶわっと体温が上がった。瞬時に離れようと足を動かしたのに足は地面を蹴れなくて宙ぶらりん。おかしい。どうして。もがけばもがくほどぎしぎしと音がしてようやく気付く。私とキラーを結ぶように腰回りに腕ごとぎっしり金属で覆われ拘束されている。離れられない。こんなことができるのはキッドだけ。慌ててキッドの方を見れば既にキッドは遠ざかっていて、あのもこもこのコートの後ろ姿しか見えない。
「キッド!!」
「うるせェ、めんどくせェ」
怒鳴ってもキッドの足は止まらない。
「……おれが、泣かせたのか?」
不意に降ってきた声に驚いてキッドから声の持ち主に視線を移して後悔した。近い。そして言われた内容にも動揺する。拘束されているのに全く微動だにせずじっと仮面の中から私を見つめているらしいキラーに降伏した。キッドはめんどくせェ、なんて言いながら(厳しい鞭でしかないけど)優しく引導を渡してくれたんだ。覚悟決めなきゃ。
「……最近、私のこと、避けてる、よね」
ぴったりくっついてるおかげでキラーの動揺が言葉通り手に取るように伝わる。やっぱり。勘違いじゃなかったんだ。
「ごめんね」
「どうしてお前が謝るんだ」
「だって」
私の好意に気付いて、だから避けてるんでしょう、なんて自分からは言葉にできなくて口籠もる。
「お前といると、困るんだ」
キラーの言葉が私を突き刺す。引っ込んでいた涙がまたぼろりと零れ落ちて、もう二度と止まらないんじゃないかってくらい頬を濡らしていく。仮面で顔が見えなくてもキラーが焦っているのがわかる。キラーを困らせたいわけじゃないのに。好きな人を困らせたくなんてないのに。
「ち、違う、お前は何も悪くない、おれが勝手に困ってるだけだ」
焦りが滲んだ音で言われた言葉が不思議で涙に滲む視界でキラーを見上げる。
「お前といるだけで楽しくて、浮かれて、……笑ってしまいそうになる」
「、え」
「だから、困るんだ。おれは、自分の笑い方が好きじゃない。お前はなにひとつ悪くない。おれの問題だ。悲しませたのなら、悪かった」
ほそぼそと小さく紡がれた音だったけど、確かに耳に届いて固まる。私の耳が都合の良い勘違いをしてしまいそうな言葉ばかり拾ってしまった気がする。だけどこの距離で聞き間違えることなんてあるわけなくて。キラーの顔は仮面で見えない。だけどぴったりとくっついている体が、うるさいくらいに暴れるキラーの心臓の音を感じて都合の良いように考えてもいいんじゃないかと思えてきた。涙はいつのまにか止まって、固まった口をどうにか動かす。勘違いならすごく恥ずかしい。だけど、だけど、
「……見たことも聞いたこともないのに説得力ないかもしれないけど、好きな人の笑顔はきっと世界で一番素敵なんだろうなって私は思うよ」
キラーが息を呑む音が聞こえて、そして私の耳にはどこか滲んだキラーの笑い声が響く。ほら、やっぱり。好きな人の笑い声ってとっても素敵。
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