タイトルを考えるのが死ぬほど苦手
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2021/10/30
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「おおきくなったらけっこんして」
ぎゅ、と小さな手で腕を掴みながら可愛らしく必死に紡がれた言葉。それに頷いたら宝石のような笑顔が返ってくるのはわかっていた。幼心ながらに精一杯の誠意を持って頷いたのは小さな頃の私の大切な思い出。想像していた通り、頷いた瞬間に花開いた笑顔にこの宝物がずっと私と一緒にいてくれるんだと嬉しくなってぎゅうぎゅうと抱きしめあったのも良い思い出だった。大人の都合でそれからすぐ引っ越してしまって、小さな私には何もできなくてしばらくこの世の終わりと言わんばかりに泣き暮らしていたのも今となっては良い思い出で。
あの天使のような子は今、どんなに愛らしく育っているんだろう。
小さな頃しか住んでいなかったくせに強烈に思い出に残っている記憶だけを頼りに、昔通っていた幼稚園を探して早朝の散歩をしているところだった。
「……見つけた、おれのお嫁さん」
可愛らしい単語に思わず視線を向ける。きらきら眩しい金色の髪の毛に、すらりとした体躯がよくわかる黒いスーツ。ひげ、咥えタバコ。あっこれあれだ仕事帰りのホストだ。仕事終わりなのに営業してるのえらい。えらいけど天使の思い出でほんわかして早朝のお散歩をしてた私に夜の匂いをさせて近寄ってくるのはちょっと怖いのでやめてほしい。
お仕事お疲れ様ですさようなら。ねぎらいの気持ちと関わりたくないですの気持ちを込めてぺこりとお辞儀だけしてすれ違おうとしたのにがっつりと腕を握られて引き止められて喉が引き攣る。えっどうしよう防犯ブザー持ってきてない、叫ぶべき? 声が出ないどうしよう。
ぐるぐるぐるぐる考え込んで地面に視線を落としていれば唐突に耳に入ってきた私の下の名前にパチンと思考が弾ける。私の名前を、知ってる? 知り合い? 恐る恐る掴まれている腕の持ち主に視線を向ける。どこか私以上におろおろして、だけど嬉しそうで、でも悲しそうな複雑な表情をくるくる魅せる男の人に、あの、と声を紡ぐ。
「ご、ごめんなさい、ど、どちら様ですか、その、どこかでお会いしたこと、」
あるんですよね、と言葉が萎んでいきつつも勇気を出して質問する。
「おおきくなったらけっこんして」
私の腕をゆうにひとまわりするほど大きな手の力がほんの少し、ぎゅ、と強まる。低く甘い声で紡がれた幼い言葉と、腕を掴む手。眩しい朝日が目の前の男の人の金色の髪の毛をちかちかと輝かせて、既視感に目が眩む。片方の目しか見えないその人の眉毛がどうにもこうにも形容し難い形にくるんと巻いていて、点と点が線で繋がった。小さな頃の天使が、この人だ。
あ、と間抜けに口を開いて、緊張に強張っていた私の体がほどけたのを見て、ホッとしながら嬉しそうに思い出してくれた?と笑う姿は、確かになんとなく、面影があるような、ないような。
「思い出してもらえなかったら泣くとこだった。君がいなくなったときにもう一生分泣いたのに」
とろとろに甘い声が私の耳をくすぐって、せっかくほどけた筋肉がまた強張ってしまったのは私のせいじゃない。
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