タイトルを考えるのが死ぬほど苦手

 
2021/11/07
アオハル


 自業自得なんだろうか。
 ────好きです。付き合ってください。
 そう言ってきた女たちを素気無く断ち切ってきた報いがきてしまったんだろうか。わざわざ無駄に傷付けるようなことなんてしていない。付き合えないものは付き合えない。濁した態度で気を持たせる方がよっぽどひどい対応だ。やれやれこれだからマリモは人間様の情緒というものをわかっちゃいねェとわざとらしく肩をすくませて鼻で笑ってきたぐる眉にだって、おれは何も間違った対応はしていねェと胸を張って鼻で笑い返した。いつものようにぼこぼこに喧嘩し合って、まあてめェにもいつかわかる時がくるさ、と皮肉に笑った男に負け惜しみなんざ男らしくねェなァと笑って第二ゴングが鳴ったのもいつものことで。
 そんないつかの喧嘩を思い出して空笑う。ああなるほど、このことか、と。間違った対応はしていなかったと今でも思う。付き合えないものは付き合えない。曖昧な態度を取る方が酷い。それはそうだ。その考えはきっと間違っちゃいない。だけどそれでも、おれは精一杯の勇気に誠意を返しただろうか。悪い、付き合えない、の言葉に少しでも気持ちを込めただろうか。面倒だな、早く稽古に行かせろよ、そんな気持ちを滲ませていなかっただろうか。勇気を奮い立たせて立つ目の前の女の名前を知ることすらしなかった。今振り返ってみても、おれに告白しにきた女の顔を誰一人思い出せない。
 訳のわからない衝動を抑えようとぐ、と手を握り込む。握り込んだ手の甲には似合わない絆創膏。少し紙で切った怪我とも呼ばないそれを見て大慌てでおれの手を引っ掴んで貼り付けられた絆創膏。衝動を抑えようと思ったのにそれが視界に入ったせいで余計にぐらぐらと腹の中が煮え立つ。
 この絆創膏の持ち主が好きだ。あまり喋ったこともない男に、見目だけなら怖いと称されることの多い男にも分け隔てなくこうして優しくしてくれるところが好きだ。あいつの隣に堂々と立つ権利が欲しい。あいつの笑顔をどんな時でも真正面から見られる権利が欲しい。あいつの涙を拭い、悲しみから守ることができる権利が欲しい。手を繋ぎたい。唇に、触れたい。
 その為には好きだ、と伝えなければならない。たった三つの音。悪い、と紡いでいた三つの音を、好きだ、に変える。それが、できない。どんな試合相手にだって怯むことのない足が震える。
 面倒だ、早く帰りたい、この人は誰だろう、そもそも付き合えないものは付き合えない、そう思われてしまうかもしれないのがこんなに怖くて嫌な気持ちになるだなんて思いもしなかった。今までは逆の立場で、おれが思ってきたこと。きっと態度にだって出ていた。なのにおれの目の前に立った女たちは、それを乗り越えて、好きだと伝えてきていた。何一つ覚えていない存在なのに、今では心の底から尊敬する女たちだ。
 自業自得だ。わかる時がきてしまった。
 おれがもっと、今までの女に誠意を持って接していれば、こんなにも恐怖に震えることもなかったんだろうか。好きだ、その一言が言いたいだけなのに。