タイトルを考えるのが死ぬほど苦手

 
2021/11/08


「ん〜! なんッッッて愛らしいんだ! こんな素敵な天使が行方不明で今頃天国は大騒ぎだろうなァ!」

 シーッ! シーッ! と、人差し指を立てて静かにと示す私を見て話が通じているのか通じていないのか目をハートにしたままこくこくと頷く姿に呆れて笑う。辿り着いた島で平和に過ごすなんてこと、この麦わらの一味にできるはずなくて。今回はこの目の前のラブコックさんが厄介事を引っ掛けて船に帰ってきた。女の子が泣いて困っていれば息をするように助けるサンジくんが、しくしく泣いている女の子を連れて空から舞い戻ってきて、そしてその結果がウェディングドレスを着て替え玉作戦。よくある話だ。お家のための政略結婚。ただでさえ女の子に優しいサンジくんが、どんなにつらいか理解できる家のための政略結婚に眉を顰めて逃がしてあげたいと奮起するのは当然で。だけどさすがに体格も背も女の子とは違っていたから自力でどうにかすることなんてできなくて私に白羽の矢が立った。ウェディングドレスを身に纏うまでは、レディにこんなことさせちまうなんてごめんよ、危ない目には絶対遭わせないから、本当にごめんよ、と悲壮感溢れる顔で何度も謝罪を繰り返していたというのに、いざ着替え終えて控室に足を踏み入れた途端、これ。悲壮感はどこへやら。まあ別に私も綺麗なドレス着れてラッキー、とか思ってるし私含め麦わらの一味にはあんまり緊張感やら悲壮感なんてのは似合わないからいいけども。それにしても本当に綺麗。鏡に映るドレス姿に思わず頬も緩んでしまう。まるで小さな頃に憧れた絵本に出てくるお姫様のよう。

「そういえば未婚の女の人がウェディングドレス着ると婚期が遅れるって聞いたことあるなあ」

 絵本を思い出すのと同時に小さな頃に聞いた迷信も思い出して笑う。確かに魔法にかけられたかのように綺麗で華やかなドレスだけどこんな布切れ一枚で運命決められても困るよねえ、と同意を求める為にサンジくんを見る。さっきまでとろけた目をしていたサンジくんの表情が途端に気難しく歪んでいて首を傾げて、はたと気付く。私が笑い話だと思って投げかけた話題を、女の人よりよっぽど夢見がちでロマンティストなサンジくんは真面目に受け取ってしまったんだろうか。

「そんなジンクスがあっただなんて知らなかった……」

 想像した通り呻き声を上げたサンジくんにただの迷信だよと笑い飛ばそうとして、固まる。

「レディこのドレス貰って帰ろう」
「え?」
「あと着替え用のドレスも何着か贈るよ」
「??」
「ウェディングドレス、毎日着て」
「……なんで?」

 真剣な表情でおかしなことを言い出したサンジくんに頭の中がはてなで埋まってしまう。サンジくんのことだから、レディの幸せを奪っちまうかもしれないなんてそんなのはだめだ今すぐ脱いで代わりの案を考えようだなんて言いそうだと思ったのに、真逆のことばかり紡ぐ口を不思議に見つめる。

「なんでってレディそんなの何処の馬の骨ともわかんねェクソ野郎からレディを守れる方法があるなら全力で乗っかるしかないでしょうが。なんでおれはそんな画期的なジンクスを知らなかったんだ……まあ今からでも遅くないよなうん」

 ぽかん、と間抜けに口が開く。そんな私を気にせず控え室のクローゼットを開いたかと思えばごそごそと、おっドレスあんじゃん、これも貰って帰ろうなどと勝手なことを言っているサンジくんの丸まった背中を唖然と見つめた。
 せっせとクローゼットを漁りドレスを小脇に抱えるサンジくんにようやく働き出した脳が言葉を受け取って思わず笑ってしまう。

「私、これから毎日ドレスを着なくちゃいけないの?」
「そうだよ。だってレディにはずっと誰のものにもならないでもらわねェと」

 ドレスを漁り終えたのか真剣な表情で振り返ったサンジくんにくすくす笑う。

「困ったなあ」
「なんで困るの。結婚なんかしなくたって麦わらの一味は楽しいだろ? ずっとずっと一緒に冒険しようよ」
「ルフィが海賊王になっても、サンジくんがオールブルーを見つけても、私だってずっとみんなと一緒にいたいよ」
「じゃあ婚期がなくなったっていいだろ?」

 婚期が遅れるどころかなくそうとしているサンジくんに笑いが止まらなくなってしまう。

「みんなと一緒にいたって結婚はできるよ」
「しなくていいよ」
「私は誰とも結婚しちゃだめなの?」
「うん」
「サンジくんとも?」
「え、そ、それ、って」
「困ったなあ」

 両手いっぱいに抱えたドレスが床にどさりと落ちて、サンジくんの白い肌が真っ赤に染まった。