タイトルを考えるのが死ぬほど苦手
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これの前日譚のようなそうでもないような話
2021/11/09
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「キスがしたい」
「あら」
「うふ」
「エッ」
優雅にパラソルの下で三人だけの女子会のはずだったのに低い声が後ろから聞こえて振り返る。太陽にキラキラ反射する金色の髪を風が揺らしているのにその持ち主であるサンジくんは顎が外れそうなほどに落ちたままかちこちに固まってしまっていた。固まった手のひらの上にはトレイと、更にトレイの上にはみずみずしいフルーツがたっぷり乗ったパフェが三つあって、これを届けにきてくれたんだなと頬が緩む。腕だけじゃなくて気遣いもパーフェクトな一流コックさんのの再起動をのんびり待っていたけれどいつまでたっても動かないサンジくんに首をかしげた。
「サンジくん?」
声をかけた瞬間に口が閉じて硬直が解けたけど、右手と右足が同時に出るぎこちない動きで私たちのテーブルに辿り着き、いつもより手際悪くパフェを給仕してくれる。その間サンジくんは無言。いつもならとても長く甘ったるいメニューの名前をつるつると口から出しているのに、きゅ、と固く閉ざされたまま。
おいしそうね。ほんと。おいしいわ。うふふ。あはは。
ナミちゃんとロビンちゃんはサンジくんのそんな様子が気にもならないのか見目麗しいパフェを細く長いスプーンでツンとつついて口へ運んでいて。二人から視線を外して給仕を終えたサンジくんを見上げる。プロ根性なのかなんなのか給仕だけはきちんと、だけど三つのパフェを机に置いたポーズのまま固まっている。二人が気にしていないから私も気にしないようにしようかと思ってスプーンに手を伸ばして一口頬張ったところで、やっぱり気になって口を開いた。
「サンジくん、どうしちゃったの?」
「ききききすすす」
音は紡がれたもののがたがたと震える声は何を言っているのか全くわからない。壊れた再生機器のようなサンジくんの有様に首を傾げた。
「だだだだれとするんで、すか」
「うん?」
しばらくよくわからない音を立てるだけのサンジくんの声をBGMにパフェをつついていたけど、唐突に音が意味のある言葉を紡いで視線を向けた。
「き、きす、きす、だれと」
そういえばこの口の中いっぱいに幸せが広がるパフェを届けてもらう前にそんな話をしていた気もする。
「うーん、次の島で探すよ」
「どぁ、」
また壊れた再生機器になってしまった。
「あら。キスがしたいだけならこの船の中から選べばいいじゃない」
「あわわわ」
ずっと微笑んでいたロビンちゃんがそんなことを言い出してBGMがほんの少し騒がしくなる。
「それこそここにいるラブコックさんとか」
「うーん。サンジくんはちょっと。キスしただけなのに結婚までいきそうだから。キスがしたいだけで純情を弄びたいわけではないの」
ロビンちゃんの提案に考え込んで首を振る。うん。サンジくんはちょっと。軽いように見えて重たいから。そこまでの覚悟はない。あらそう、と楽しそうに微笑むロビンちゃんの横でナミちゃんが呆れてる。不思議に首を傾げそうになる前にバタンと大きな音がしてギョッと視線を音の先に向ければ真後ろに倒れ込んで目をクルクルまわしているサンジくんがいて悲鳴をあげそうになる。なんで急に気絶しちゃったの。慌ててサンジくんの横に駆け寄った。チョッパーを呼ばなきゃ、と顔をあげた瞬間にナミちゃんの大きなため息。
「人工呼吸でもしてあげたら?」
ロビンちゃんがひそやかに笑いながらそう言って首を傾げた。気絶なのに?
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