タイトルを考えるのが死ぬほど苦手
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2021/11/28
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“キスをしないと出られません”。ぴったり密着するほど狭い箱の中に訳もわからないまま閉じ込められ、白い文字が私たちの前に浮かび上がって二人同時に瞬く。何度か瞬いてもその文字は消えることはなく、しっかり脳で理解できてからそれを分かったかのようなタイミングでゆっくりと消えた。ぱち、と視線が絡まって、そして、ツゥ、と鼻血がサンジくんのご自慢の髭を通過して顎から首筋まで垂れる。まあその、分かってはいたけどここまで予想通りに鼻血を流すサンジくんに思わず苦く笑う。
「グランドラインはなんでもありだねえ……」
小さく笑いながらサンジくんに話しかけても目を白黒させながらパニックに陥ったままでサンジくんが落ち着くまでのんびり待つことにした。まあ閉じ込められて意味のわからないことを命令されてはいるものの、今のところ特に命の危険もなさそうだしひとり狼狽えるサンジくんを見上げて待つ。なのに唐突に足元で、ガン、ガン、と重たい音が鳴ってギョッとする。命の危険はなさそうと判断した瞬間のその衝撃音に思わず飛び跳ねてサンジくんの首に縋り付いて地面から足を浮かせてまとわりついた。こぽり、と鼻血の溢れる音にごめん、と思ったけど箱が揺れるほどの大きな音と衝撃が怖くてサンジくんの出血に気を回していられない。地面から足を離してサンジくんに抱き着いているはずなのに音と同時に揺れる体に恐る恐る音のする方へ視線を向ければ黒く長い足が僅かに燃えながら私たちを閉じ込める謎の箱を延々と蹴り続けていて目を見開く。ぽかんとして思わず顔を上げる。
鼻血だけじゃ飽き足らず、鼻の下まで伸びきっている。飛び跳ねて足を浮かせて抱きついた私を支えるようにギュッと腰を抱き寄せながらウヘヘ♡レディとキッス♡だなんて独り言が漏れていて、だけどサンジくんの足は燃えながら人間が出す音ではない恐ろしい音を立てて箱を壊そうとしている。上半身と下半身であまりにもちぐはぐなサンジくんにさっき浮かび上がった文字を見つけたときよりも脳が理解を拒否して固まったまま。
「……さ、さんじ、くん?」
「でへ、でへへ、レディとキッス♡」
信憑性も何もないあの文字を見た瞬間に待ってましたと言わんばかりにキスされると思った。現にサンジくんの唇は僅かに尖って私の方へ向いている。なのにサンジくんの顔は何かに固定されているかのように一向に動かず、足だけが折れるんじゃないかと心配になる程おぞましい音を立て続けている。
ガン! ガン! ガン゛!
僅かに音が変わって、バキ、と音がした。私の後ろから光がさして、箱が開いたことが見なくてもわかる。抱きつくようにまとわりついていたはずなのにいつのまにかお姫様抱っこに体勢が変わっていてサンジくんが私を抱いたまま外へ出て眩しさに目を細めた。
「出られるじゃねェか……! くそ! レディとキ゛ス゛し゛た゛か゛った゛……!!」
一度周囲を見渡して無事を確認した瞬間、私を抱いたまま崩れ落ちて泣くサンジくんに瞬く。鼻血は止まったけど今度は大量の水を目から流しているひどい有様な姿に混乱する。
「どうしてキスしなかったの?」
「ひっ、く、だって、だって、レディ、……好きでもねェ男とキスなんかさせられねェよ、ひぐっ、せっかくのチャンスをおれァ、くそ、くそっ……!」
泣きながら紡がれた言葉にじんわりと胸が熱くなった気がする。胸だけじゃなくて、なんだか全身がぽかぽかする。いつも女の人にだらしがないのに。女風呂を覗くことにとても執着しているのに。いつだってピンクなことを想像しているのに。ラブコックやエロコックなんて言われるくらいなのに。それなのに目の前にぷらんと餌をぶら下げられても結局最後はいつも女の人の気持ちを考えて自分の欲をぶつけることなんてしない優しすぎる紳士なサンジくんにぎゅうっと胸が締め付けられる。
「確かに好きでもない人とキスはしたくないよね」
「うぐ、」
私の言葉にぶわり、と大粒の涙が溢れる頬に両手を伸ばしてそっと濡れた頬を挟んだ。嗚咽が漏れないように唇を噛み締めているせいで血が滲んでいるのか、それともさっきの鼻血が唇を伝っているだけなのかわからない口に、ちゅ、と音を立てて触れるだけのキスをした。
「──へ、?」
「私、サンジくんのそういうところが好きだよ」
間近でサンジくんの宝石のように綺麗に潤んだ目を見つめれば大粒の涙は止まって、また鼻血を吹き出したサンジくんに声を出して笑った。
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