タイトルを考えるのが死ぬほど苦手
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2021/11/29
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「サンジくん」
本当は、サ、の段階ではいっ!と元気良く跳ね起きたい。だけど恥ずかしがり屋のレディはこうしておれがダイニングのテーブルに頬をつけてうたた寝をしているときくらいしか名前を呼んでくれないから、その貴重な音を逃したくなくてぎゅっと固く目を閉じたまま耳を澄ませる。
「サンジくん、おきて、ねえ、」
控えめなレディは本当に起こそうとしているのか疑問に思うほどささやかで愛らしい声がおろおろとしていて、すぐにでも飛び起きたいのを我慢する。そう何度もこんな狸寝入りができるわけがないのはわかっているから、月に一度くらいしかチャンスはない。
五回、五回だけ、レディの声を噛み締めさせてほしい。レディをわざと無視してしまう罰はあとできちんと受けるから。
「サンジくん、持ったままだとあぶないよ、起きて」
そ、とおれがレシピをまとめるために握りしめたままだったペンを優しく手から引き抜かれる。その瞬間にレディの柔らかな肌がおれの手にほんの少し触れて頬が緩みそうになる。三回目。あと二回。あと二回聞いたらちゃんとするから。
「どうしよう……このままだと風邪ひいちゃう……」
おろ、と困ったようにおれの横に立っているレディの声が降ってきて、あと二回だなんて勝手なおれの欲望でレディを困らせちまっていることに良心が痛んでぴくりと指先が動く。くそ、駄目だな、五回は駄目だ、これからは三回にしよう、ごめん、レディ。どうしても恥ずかしがり屋のレディに名前を呼んでもらう貴重な時間を捨てきれない。月に一度だけだから、だから、ほんの少しだけ困らせるのを許してほしい。ごめんね。そう考えて、瞼を持ち上げようとした瞬間だった。
「起きてくれたらキ、キス、してあげる……」
耳に飛び込んできた言葉に持ち上げようとしていた瞼どころか全身がかちこちに固まった。恥ずかしそうに詰まりながらどんどんどんどん小さくなっていった声だったけど、確かに、はっきり、この耳に届いた。こうして狸寝入りをしないと名前を呼ぶことすらできないレディが、キス、を?
「お、起き、起きないじゃん、ナミちゃんのばかあ……」
硬直したままパニックに陥るおれはきっと息をしていない。なのに狸寝入りに気付かないほどにレディは恥ずかしそうに照れながらナミさんの名前を出して合点がいく。「サンジくんならこの一言で飛び起きるわよ」と楽しそうに目を細めた女神が恥ずかしがり屋のレディに言う姿が手にとるように目に浮かんだ。
「も、もうふ、」
恥ずかしさに居た堪れなくなったのかおれを起こすことを諦めて一度ダイニングを出て毛布を取りに行ってくれたらしい優しいレディに、扉が閉まる音と同時にずっと止めていた息をようやく吐き出す。身を起こして、ばちん、と勢いよく両手で顔を叩くように覆う。いてェ。夢じゃねェ。
「……固まんなかったら、ほんとにキス、してくれたのかな」
きっと、天罰だ。名前を呼ばれたいからと狸寝入りをして、レディをわざと困らせた。だから甘い誘惑に体が固まってしまったんだろうか。本当に寝てたら、きっとあの声がした瞬間何も考える暇なんてなく本能的に飛び起きられたのに。わざとだったから。だから。
「くそ、……キス、されたかったな」
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