タイトルを考えるのが死ぬほど苦手

 
2021/12/01


「うえ、まじぃ!」
「っ、?!」

 べろん、とルフィが舌を口の中に仕舞い込んで顔を顰めるのを呆然と見つめる。口周りがしっとりとしている。ルフィのソース一滴さえも残さないという気概がたっぷり感じられるお皿を舐めるいつもの仕草。だけどルフィが舐めたのはソースのついたお皿じゃなくて、私の口、で。口をおさえることも出来ずに固まったままの私にぴょんっと跳ねて更に近付いてくるルフィの近さに目を白黒させる暇もない。ごし、と弾力のあるゴムの指が私の唇を乱暴に擦りはじめて、んぎゅ、だのなんだのよくわからない奇声が私の口からこぼれる。

「なんか美味そうな匂いがしたからうめェと思ったのになァ」

 美味そうな匂い。そういえばさっき、苺の匂いがするリップクリームをたっぷり口に塗った気がする。だけどだからって、そんな。
 まっじィ!とけたけた笑いながら私の頬に片手を添えながらルフィの唾液も唇に乗ったリップクリームもごっそり奪って乾燥した口は何も言葉を紡げずにルフィにされるがままで。
 ルフィの真っ直ぐできらきらしたこどものような瞳が、更にいつもより大きく見えて目を見開く。私の唇に触れていた柔らかなゴムが、両頬に添えられて、乾燥した唇がまたしっとりとあたたかい何かに濡れる。
 伸びた舌がルフィの口の中におさまって、そしてようやくまた私の口をルフィの舌が舐めたということを理解する。

「る゜ッ、」

 ようやく硬直から解けて声を出せたもののひっくり返って咳き込む。私の両頬を挟んだまま不思議そうにきょとんとしていて、あまりに無垢なその瞳に狼狽する方が馬鹿らしいと上昇した体温が下がって落ち着きを取り戻す。このキャプテンは小さな子どものように食欲しか頭にない。本当にただ、美味しそうな匂いがしたから舐めてみただけ。そんな考えで唇を勝手に奪われたことに腹が立つ気持ちもあるけれど、ルフィらしいなあと許せてしまう気持ちの方が強くて頭を切り替えた。

「こら。どんなに美味しそうな匂いをさせてても女の人の口は舐めちゃだめだよ」
「なんで怒るんだよぉ〜……」

 わざとらしく怒ったふりをしながら幼子を諭すように優しくルフィの無垢な目を見つめ返して言えば、んんん、と悲しそうに情けない声を出すルフィに小さく笑う。ほらやっぱり。照れるだけ無駄だった。目の前のこのキャプテンはそういうことが頭からすっぽ抜けてしまっていて、だけどこれから先もこの調子だと船の秩序が乱れてしまう。こういうのははじめの躾が肝心だよね、と気合を入れ直してルフィの額を軽くデコピンして口を開く。

「そういうことは好きな人とだけすること。あ、ナミちゃんもおんなじのつけてるけどこんなことしちゃだめだからね! わかった?」

 パッとルフィの表情もいつも通り明るくなる。わかってくれたのか、と安心したのも束の間、ルフィの顔が思い切り近付いて、

「わかった!」
「え?」

 べろん、とまた舐められた。ちゅ、とおまけに吸われて固まる。

「ん! さっきも思ったけどやっぱそのままのがうめェぞ!」

 邪気のない笑顔に、もう舐められまいと無理矢理体を動かして自分の口を両手で隠す。

「だ、っから、だめだってば、!」
「なんでだ?」
「だからその、こういうことは、ひとりの女の人としかしちゃだめなの!」

 あちこちで無自覚にいろんな女の人を惚れさせてしまっているルフィが、こんなことをところ構わずしてしまってはひどいことになる。どう言えばルフィにそれが伝わるのか頭の中でぐるぐる考えている私と違ってにこにこ楽しそうに笑う能天気な姿に余計に焦ってしまう。どうしよう、どう言えば。口を押さえていた私の両手首をぎゅっと掴まれて飛んでいた意識がまたルフィに戻る。ぐ、と手首に力を込められて隠していた口が空気に触れる。

「なんだ、他のやつにもしてんのか心配だったのか? 安心しろよ、お前だけだぞ!」