タイトルを考えるのが死ぬほど苦手

 
2021/12/03


 ぼんやりする視界の先でレディが静かに微笑んでいる。後頭部は何か、柔らかな感覚。近い距離に、後頭部のマシュマロのような感触に、これはいわゆる、膝枕というものをしてもらっているんじゃないだろうかと当たりをつけた瞬間、その事実に全身が血で沸騰しそうになる。おれを見下ろして柔らかな笑顔を携えている姿はさながら女神のように眩しくて、そんな女神を見て鼻血を出すのは男として当たり前で。だけど重たい腕を動かしてぺた、と自分の顔面を触っても鼻血は出ていない。おかしい。
 女神は相変わらず微笑んだままおれに視線を落として悪戯におれの髪の毛をくるりくるりとたおやかな指先に巻き付けて遊んでいて、女神の少女のような一面にまた胸がどきどきと高鳴る。髪の毛をいじりながらたまにおれの額をするりと撫ぜて楽しそうに微笑むレディから目が離せない。
 こんな天国のような状況でおれが鼻血を出さないなんてこと、あるわけがない。だからこれは、

「ゆめ?」
「ふふ、夢だったらどうする?」

 ぽかんと間抜けに落とした声にレディの愛らしい声が返ってくる。どうする? どうする、って。

「もっとなでてほしい」
「いいよ」

 欲望のままに呟いてもおれの鼻から赤い血は流れなくて、レディはおれのお願いをひとつ返事で了承してくれる。レディは優しいから、夢じゃなくてもきっと撫でてくれる。だけどおれが、おれが、レディに膝枕をしてもらいながら撫でてもらうだなんてこと、夢以外でできるはずがない。速攻で鼻血を出して気絶して、全てを台無しにする。だからこうして柔らかな膝に頭を預けて、頭を撫でてもらって、微笑んでもらって鼻血を出さずにそれを甘受できているのは、夢、だからで。

「こんなにしあわせなゆめがあっていいのか……」
「幸せなの?」
「うん」
「他にしてほしいことはないの?」

 夢だから都合の良いことばかり聞いてくるレディに欲望のままに口を動かしてしまいそうになる。だけど、いくら夢だからって勝手な欲望をレディにぶつけていいわけじゃない。重たい体をどうにか傾けレディのおなかに顔を埋めて、ぎゅうっと抱きしめるだけにとどめて満足する。
 世の中に存在するレディはレディってだけで美しくて、可愛くて、胸がときめいてしまう。道を行き交うレディに鼻血を出す頻度は免疫もついたのか目に見えて減ったけど、やっぱり好きな女の子は世界一輝いていて、好きな女の子に免疫なんかできるわけもなくてどんな些細なことでも鼻血が出る。だけど、現実なら鼻血で邪魔されてできないことも夢の中ならできるから。夢だとしても至福の時間を堪能するべくぎゅうっと隙間なく抱きついて、おれの頭を撫でてくれるレディに夢の中に溶けそうになる。
 永遠に堪能できる幸せな時間に、唐突に不思議な音がなって固まる。きゅる、とぴったり埋めていたおなかから発生した可愛らしい音。おれとレディのおなかの隙間を開けてレディを見上げれば恥ずかしそうに眉を下げたレディと目があって瞬く。

「えへ、おなか鳴っちゃった、サンジくんもそろそろ起きれそう? もうすぐルフィたちも我慢できなくなっちゃうかも」
「え、」

 サンジぃ〜ハラ減ったァ〜……。こらこらこら珍しく良い雰囲気なんだから邪魔しちゃ可哀想だろ。そうよ、今日くらい私が作ってあげる。どうせ有料なんだろ。お金取るのか?!
 耳を澄ませば聞こえてきた声の数々。レディの言葉が頭の中でぐるぐると駆け回って噛み砕けない。夢、のはず。だって鼻血、え、?

「寝惚けてるサンジくんって甘えん坊でとっても可愛いね」

 くすくす笑うレディに今度こそ全身の血が沸騰して、活動を再開した体はいつも通り鼻血を吹き出してしまった。