タイトルを考えるのが死ぬほど苦手

 
2021/12/11


 あち、と舌を焼いた感覚に眉を顰める。随分久しぶりに舌を火傷した気がする。久しぶり、な理由に気付いて、ひりひり痛む舌を愛しく思ってしまって眉間の皺が伸びた。この舌はずっと、サンジくんに甘やかされていた。適した温度で出される料理の数々。火傷なんてするはずもなく、いつからか差し出される料理にふうふうと息を吹きかけることをすっかり忘れていた。冷たい水を口の中に広げてもちりちりする舌にひとり壁にもたれかかってニヤニヤしている私はきっと不気味だろう。

「────ィ!」

 島中で開催されている祭りのような宴の喧騒に紛れて頭の中で考えていた人の声が聞こえた気がしてかぶりを振る。そんなわけがない。サンジくんは今、宴の中心地で楽しそうに料理を振る舞っているはずだから、こんな場所にいるはずがない。火傷した舌を水で冷やしている間に、熱々だった料理は適温になっている。だけどちょっとだけまた火傷したらどうしようなんて思ってしまって、ふうふう、と唇を尖らせて息を吹きかける。瞬間、目の前に嵐。

「エッ、キス待ち?!」

 キキッ、と急ブレーキの音が聞こえたかのような勢いで私の目の前に現れたサンジくんに驚いてぽかんと固まってしまう。きすまち、……キス待ち? サンジくんのよくわからない思考回路に思わず笑って否定する。

「違うよ。それよりこんなところでどうしたの?」
「一通り大量に作ってきたから、今度はおれもここの島の料理を食わせてもらおうと思ってさ」

 現地料理の研究に余念がない一流のコックさんに思わず顔が緩む。

「そんで、その、レディがもし暇ならその、一緒に、」
「デート?」
「デートって言っていいの?」

 もじもじとしていた言葉を引き継げば途端に顔を崩してでれでれと笑うサンジくんに頷く。

「ねえ、これ食べて? あーん」
「あっ?! あーーーん♡♡♡」
「あのね、おいしかったからまた船の上でも食べたいなと思って」

 それ以上崩れるのかって言うほど崩れ溶けたサンジくんの口に、さっき私が火傷した料理を一口差し出す。料理に関するおねだりをすれば溶けたサンジくんの表情はキリッと真剣な顔に早変わりして、舌の上でもぐもぐと咀嚼しながら何がどう使われているのかを考えている一流コックさんの表情で。

「ん、ほんとだ、うめェ」

 なんだって作れる一流のコックさんなのに初めて見る料理にはいつも子どものように目を輝かせるサンジくんに頬が緩む。

「作れる?」
「ん、だいたい材料はわかったよ。けど、うーん、それどこにあったの?」

 最後の一手がなんとなく掴めないのか、なんだろこれ、ここでしか取れねェやつかな、うーん、と目を伏せながらぶつぶつ言うサンジくんに何も言わずにもう一口差し出せば何も疑わずに口をぱっかりあけるからくすくす笑ってしまう。いつの間にか私の手元に水の入ったコップはなくて、サンジくんが持ってくれている。お互いが片手ずつ空いていて、だから、ちょい、とサンジくんの空いてる手を軽くつまむ。目を伏せてもう一口を真剣に吟味していたサンジくんの目が丸く開いて、その姿ににっこり笑えばまた溶けてしまうサンジくんの手を引く。こっちだよ、と私の舌をほんの少し焼いた料理を置いていた場所に案内する。次にこの料理を船の上で食べるときにはすっかり舌がまた甘やかされていて、ふうふうと息を吹きかけなくても私の舌は火傷なんてしなくて、だけど熱々で美味しい料理が舌の上に乗るんだろうな。