タイトルを考えるのが死ぬほど苦手

 
2021/12/21


 来いよ、と切り傷や火傷で彩られた美しい料理人の手で手招きされる男の人たちが羨ましくて仕方がない。白魚のような指が手招いた瞬間、あたりが一瞬だけ静まり返る。
 声を張り上げなければお酒を飲み交わしている隣の人の声すら聞こえない宴の最中なのに、甘やかな優しい声だけは拡声器を通したかのように騒がしくはしゃぐ人々の耳にしっかりと届いて我先にと手招かれたサンジくんのもとへ空になったお皿を持って駆け寄っていく。
 羨ましい。
 来いよ、と手招かれることが。
 乱暴な言葉の応酬のくせにその空間は愛に満ち溢れていて、そんなサンジくんのそばに行くことを許される男の人たちが羨ましい。
 羨ましい。羨ましくて、仕方がない。
 だって私は一度たりともあの美しい指で手招かれたことはない。私だけじゃない。女の人はみんな、誰も、誰一人、あの指で呼ばれたことなんて一度もない。

「レディ、スペシャルドリンクのおかわりはいかが?」

 ほら。私は手招かれない。
 グラスの中の液体がなくなって氷とグラスがぶつかってからんころんと音を奏でたのと同時に声をかけられる。グラスが空になったことを私が気付く前に一流コックさんはそれに気付いてトレーの上にさっきよりも煌びやかな色をしたドリンクの入ったグラスを乗せて目の前に跪いている。さっきまでは粗暴な態度で、だけど愛しくてたまらないというのが隠しきれない笑顔で男の人へおかわりのスープをよそっていたのに。
 愛しくてたまらないという笑顔は同じ。サンジくんは誰にだって平等に愛を振り撒くから。ただほんの少し、目に見える態度が違うだけ。ラッピングが変わるだけで中身は一緒。わかってる。
 これからも私は、あの白く長く骨張った指をちょいちょいと折り曲げて、来いよ、と言われることはない。
 だって、私の手元が空っぽになることはないから。空になる前に満たされてしまうから。
 来いよ、と手招かれるより、こうして出向いてもらえる方がよっぽど特別な待遇なのはわかってる。
 わかっていても私も、来いよ、とあの甘やかな声で呼ばれたかった。