タイトルを考えるのが死ぬほど苦手

 
2021/12/27


「来い」
「ハイ」

 ごねる方が長引くことをようやく理解したのか一言発しただけで素直に着いてくるようになったのは成長したと思う。が、椅子に座らせて背中側の服を捲ったときに見えた青あざや赤い擦り傷に眉を顰めてため息をつく。ごめんなさい、と何度も聞いた口だけの返事には消毒液を乱暴にぶっかけることで手打ちにしてやった。キャプテンひどい!もっと優しく!などとやっぱり反省なんてしていなかったことがわかるふざけた物言いに、もっとぶちまけられてェのか、と低く言えば口を閉じた。そのすきに余分な消毒液をガーゼで拭いながら黙々と処置をする。同じ年頃の普通の女ならば、こんな風に体中の至る所に怪我を負うことなんてない。普通の女ならば、と何度も考えたことがある。その度に、普通の男と幸せそうに並び立つこいつを想像しては、横の見知らぬ普通の男を刻んで、結局はおれの船に乗せている。想像ですらそんな有様だ。手放せないことは理解している。それでもお前が傷付けばいいと思ってるわけじゃない。戦わず、ずっと部屋に閉じこもってればいい。おれがなんでも望むものを持ってきて、何不自由ない生活を送ることを保証してやる。そんなことを言っても言うことを聞く女じゃないから、だからこの女の肌は戦う海賊の肌になっている。仕方がない、なんて割り切れるはずがない。おれの能力でお前が武器を取り敵に駆け出した瞬間に安全な場所に押し込めることは容易い。容易いはずなのにそれをしないのは、お前に嫌われたり泣かれたりするのが嫌だからなんていう情けないにも程がある理由。一度、我慢が効かなくて鍵付きの部屋とまではいかずとも問答無用で安全地帯の後ろまで下げたことがある。その戦闘を終えた瞬間に、私だってここのクルーなのに信用されてないんですかと泣かれたことがこんなにもおれを臆病にさせる。おれとお前の落とし所は、おれの心臓ばかり痛めつける。これ以上ないほど譲歩していることにこの女は気付いているんだろうか。打ち身には湿布。擦り傷にはガーゼを貼り付けて、気付かれないように髪を一房つまんで祈るようにして額へ押し付ける。お前を普通の女に戻すことはもうできない。できることなら潜水艦の奥底へ引っ込んでいてほしい。そんなことを言って嫌われたくない。だから、できるかぎり怪我はするな。結局いつもそれだけ祈って、髪から手を離す。
 処置はこれで終わりだ。ぶっきらぼうに言い放てば背中を向けて服を持ち上げるだけだった女はなんの疑問も持たずに、もう治った気がする!ありがとうキャプテン!と心からの笑顔で振り向いてくる。次はベポを呼んでこいと呟けばアイアイキャプテンと元気に駆け出す後ろ姿に重たいため息をひとつこぼした。