タイトルを考えるのが死ぬほど苦手

 
2021/12/29


「じゃ行ってきます!」
「やだァ!!」
「わっ」

 朗らかに挨拶をして甲板から降り立とうとした瞬間、ダイニングの扉が勢いよく開いたと同時にとんでもないスピードで足元に縋り付いてきたサンジくんに驚いて固まる。ひぐひぐと涙を流しながら足に縋りつく姿に、訳がわからず固まっていればおれのこと捨てないでェと泣き喚いていて瞬く。意味がわからないままだけど、とりあえず捨てないでと言われたことだけは理解して、捨てるわけないよと足に縋りつく金色の丸っこい頭をなでなでして周囲を見渡す。
 唐突なサンジくんの捨てないでと言いながら涙を流す理由を他の誰かが知っていてくれればと願ったけれど、さっきまでいってらっしゃいとにこやかに笑ってくれていた面々もぽかんとしていて、腕どころか足でも私をぐるぐると絡め取って泣き喚くサンジくんを見下ろすことしかできない。

「ねえどうしたの? ちょっと島に降りてくるだけだよ?」
「すてないで、」

 小さな子どもに言うように優しく優しく呟いてもサンジくんはやだやだ捨てないでと駄々を捏ねて泣き喚くだけで困ってしまう。

「サンジくんのこと捨てるわけないよ、どうして急にそんなことを思ったの?」
「だ、って、だって、ナミさんが」
「ナミちゃん?」

 ひぐっ、と引き攣る音が、捨てないで、と、やだ、以外の意味のある言葉を紡いでようやくもらえたヒントに、だけどやっぱり意味がわからなくて首を傾げた。サンジくんが壊してしまうくらいの勢いで開け放たれたままだったダイニングの奥から、こつこつとヒールの音を鳴らして優雅に歩いてきたナミちゃんに視線を向ける。可愛らしい顔が悪巧みを考えているときのにまにまとした表情になっていて、思わず苦く笑う。何を言われたかわからないけどとにかくナミちゃんに遊ばれたことだけは理解した。

「何言ったの?」
「別にぃ? この島の男たちは情熱的で一途でイケメン揃いらしいわよ、って教えてあげただけ」

 くすくす笑いながら言われて私も思わず笑う。その間もひぐひぐ捨てないでと情熱的に縋りついていたサンジくんの頭を愛しさ余ってつい髪の毛をくしゃくしゃにしてしまうほどに撫でてしまった。さっきまでと撫で方が変わったことに不思議に思ったのか顔を上げてようやく視線が交わった目は溶けてしまいそうなほど涙に濡れていて、顔もびちょびちょで思わず笑う。

「情熱的で一途でイケメンなのはそりゃあとっても魅力的だけど」

 私の言葉を最後まで聞かずにびゃんっ、と滝のように流れた涙が面白くて言葉に詰まってしまったけどもう一度息を吸って口を開く。

「でもどんなに魅力的でもその人はサンジくんじゃないから。完璧な理想の人が目の前に現れたとしても、その人はサンジくんじゃないから好きにはならないよ。私が好きなのはサンジくんなの。わかった?」

 水浴びでもしたの?って聞かれてしまいそうなほどびちゃびちゃになった顔はそのままだけど、ぴた、と蛇口を閉めたかのように唐突に止まった涙にちゃんと言葉が届いたようで安心して頬を緩める。くしゃくしゃにしてしまった金色の髪の毛を元に戻すように撫で続けてサンジくんの再起動をゆっくり待つことにした。