タイトルを考えるのが死ぬほど苦手

 
2021/06/08


 目が覚めた瞬間、意識を失った瞬間のことを思い出した。何が起きたのか分からないほどスムーズに気絶させられ、誘拐されたのだと。口と手と足は見事に塞がれ床に寝転がされているけれど、視界だけは自由できょろ、と視線を動かした。まあ当然のように薄暗くて埃の被った廃墟のような場所で、この状況から私ができることは何もなくて、奇跡が起きてロープがちぎれるのを祈ってもぞもぞ手足を動かすしかない。
 こんなにも図太くいれるのは、降谷さんと待ち合わせをしていたから。待ち合わせ時間に私が現れなければあの人は不審に思ってくれるから。不審にさえ思ってくれたらあとはもう勝利の方程式で、私はただ命を繋いでさえいればいい。私を誘拐した犯人が私が起きたことを察知してこの部屋に来なければ良いけど。
 もぞもぞと動かしていただけではやっぱり手首と足首が無駄に傷付くだけでちりちりと痛みを感じはじめて、無駄な足掻きはやめた。素直に大人しく転がされたまま、廃墟らしくところどころヒビの入った壁から漏れる光を眺める。この壁の先は、きっと外なのに。せめて外の景色だけでも見られれば、どこに誘拐されたのかわかるのに。外に連絡する手段を持たないから知ったところでどうしようもないかもしれないけど、僅かな光が暇な私の脳にそんなことを考えさせる。
 瞬間、ドンッと大きな音がその壁の向こうから、というより壁を叩いたような音で地面に伏せていた体が飛び跳ねる。犯人、だろうか。私が起きたことを知って、外で私をからかって遊んでいるんだろうか。命の危機が迫っていることにバクバクと心臓が跳ね出して、ドンッ、ドンッと叩かれる壁に、息を顰めて目を閉じた。目を逸らしたところで壁を叩く音が聞こえなくなるわけではないのに。
 ドンッ、ぱらぱら、
 何かが崩れた音がして目を見開く。逆光に目を眇めて、固まる。逆光、ということは、ヒビが入っているとはいえ、建物が崩れたということで、犯人が建物ごと私を殺そうとしているのかと怯えて固まった。

「無事か」

 瞬間、聞こえた声にまだ逆光で目がきちんと働いていないのに、その声だけで無意識に力が抜ける。光に目が馴染んで、その声の持ち主である降谷さんが目に入って思わず乾いた笑いがこぼれ落ちた。口枷を真っ先に外してくれた降谷さんに思わず問う。

「素手でかべ、壊したんですか」
「それが一番手っ取り早かった」

 涼しい顔でけろりと返す降谷さん。だけど、足、手、と拘束を解いてくれる降谷さんの汗の匂い。水でも被ったのかと思いたくなるほどの汗。息もほんの少し乱れていて、言葉とは裏腹に必死で助けてくれたのがわかって自由になった体で、ぎゅうっと降谷さんに抱きついた。