タイトルを考えるのが死ぬほど苦手

 
2021/06/16


 ぎゅうぎゅうと守るように抱きしめられている。全く見ず知らずの子どもを母のように、姉のように守るお人好しな女の人を抱きしめられながら見上げる。だいじょうぶ、だいじょうぶ、と小声で囁くのは、きっと私を慰めるための言葉なんだろうけど、自分自身を鼓舞する言葉でもあるんだろう。冷え切った場所にふたりして閉じ込められ、どれほど経ったのかわからない。不運にも犯罪に巻き込まれた(私が巻き込まれたのか、彼女が巻き込まれたのかは犯人を知らない現状はわからないけれど)私達はきっと普通ならふたりして呆気なく凍え死んだことだろう。
 けれど私は絶対に工藤くんが助けに来てくれることを知っているから、刻一刻と冷えていく体に死を垣間見ることはない。でも私を服の中に招き入れ肌と肌を合わせて抱きしめ、さすり、少しでも私の体温を下げさせないように努力するこの女の人は、工藤くんを知らない。だからひたすら恐怖に怯え、それでも見ず知らずの少女の為に泣き言ひとつ言わず引き攣った笑顔で慰めてくれている。
 そんな優しい女の人に、込み上げるこの気持ちはなんなんだろうか。吊橋効果という言葉がちらつく。命の危機に見ず知らずの少女に体温を必死で分け与えてくれる優しい女の人に、こんな感情を持ってしまうなんて。母のように、姉のように優しくしてくれる女の人に、不謹慎だ、駄目だと思えば思うほど母や姉には持たない感情がぽこぽこと湧いてしまう。ごめんなさい。
 ぱち、と視線が交わった瞬間、ぽと、と頬に冷たい何かが落ちる。女の人の目から水滴が生まれて、それが瞬時に宝石のように固まって私の顔に落ちたんだとわかった。
 ごめんなさい、あなたは必死で私を慰めてくれようとしているのに、助けようとしている見た目が子どもの女がこんなことばかり考えて。

「ここから、でられたら、なまえ、おしえてくれる?」

 凍えて震えてしまった声はどこかしたったらずになって、見た目通り小さな女の子のよう。だけれど、考えていることは不埒なことばかり。それを知らない女の人は瞬いて私を見つめる。
 まずは外に出て、名前を聞いて、名前を教えて、この人のことを知るところから始めて、そして私の存在をこの人に知ってもらいたい。分厚い扉の外から、灰原!と叫ぶ声が聞こえて頬を緩めた。