タイトルを考えるのが死ぬほど苦手
← →
2021/07/03
▼
サンジくんは対女性に限り基本的に明るくてにこやかで物腰柔らかな紳士的な男の人。悲しい表情や怒りの表情はあんまり見せてくれない人だからいつも見逃していたけれど、サンジくんの表情の機微に気付けるようになった。長年仲間として付き合ってきたからなのか、私がサンジくんを好きだからなのかは判断しかねるところだけど。
なんだか悲しげなサンジくんの丸い背中に近寄る。なあに、と目をハートにしながらメロリンしてくれるサンジくんに一瞬気のせいだったかしら、なんて怯んだけど、自分の目を信じてサンジくんのそばにぴったりくっついた。ビクッと思いきり驚愕の表情で私を見下ろすサンジくんに、腕を引っ張って一緒に座るように促す。いつも女性と見ればふにゃふにゃにとろけるサンジくんの柔らかな体が私からの急な接触に驚いたのかかちこちに固まってるのに言うことを聞いてくれる。そんな、らしいサンジくんに小さく笑ってぴったり腕と腕を密着させながら座った。
「れ、レディ?」
「今からサンジくん十五分間、猫ね」
「え?」
密着させていた腕を離して、私だけ膝立ちになって真横からぎゅうっと頭ごと体を抱きしめる。ひゅ、と息を呑んだのが胸元にかかる息でわかったけど、鼻血が出ていないからとりあえずそのまま続行。私の胸にサンジくんの頭を抱き寄せて、言葉通り猫のように撫でる。
「なに、えっ、な、なに?!」
「猫はしゃべらないよ」
「え?!」
サンジくんが何かを悲しんでいるとはわかるようにはなったけれど、さすがにエスパーじゃないからどんな理由で落ち込んでるかまではわからない。だからサンジくんなら喜んでくれる接触(自意識過剰なんかじゃなくサンジくんは本当に女体ならなんでも喜んでくれるから私が抱きしめてもご褒美にはなる。サンジくんに恋する私としては嬉しいような悲しいような複雑な気持ちになるけれど)と、サンジくんのことを褒めることしかできない。
いつも美味しくて栄養がバッチリのごはんやデザートをありがとう。自由人が多いこの船が清潔で保たれてるのは働き者のサンジくんのおかげだよ、ありがとう。身を挺して庇ってくれるのはたまにヒヤヒヤするけれどいつも優しいサンジくんに助けられてるよ、ありがとう。えとせとら。
混乱に意味を為さない言葉ばかりこぼしていたサンジくんが途中から静かになって、そっと、本当に触れるか触れないかくらいの力加減で背中に手を回された。一瞬驚いて賛辞の言葉に詰まったけれど、胸に抱えた金色の丸い頭から真っ赤な耳がちらりとのぞいて気を取り直して言葉を紡ぐ。
「サンジくん、だいすきだよ」
「……にゃあ」
女の子の言葉は絶対なサンジくんは私の、猫はしゃべらないよ、を律儀に守ってくれている。ただ十五分じっと黙っていればダンディな紳士を崩さなくたって済むのにわざわざそれを崩してまで猫の泣き真似をして返事をしてくれたのは少しだけ自意識過剰になっても良いのかもしれないなあ、なんて調子に乗って抱きしめる力を強くした。
← →