タイトルを考えるのが死ぬほど苦手
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2021/07/08
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最初から期間限定の恋だと理解していた。ビルがそこかしこにあるいつもの風景が瞬きをした瞬間海しか見えない場所に早変わり。そして目の前には紙面上でしか見たことがない、悪役。だけどそんな不思議そうに目を丸く見開いた姿は見たことがなくて、その大きな目に私の姿が写っていることがおかしくて、殺されてもお釣りが来るくらい良いものを見れたなあ、なんて思っていたのに。
なんの気まぐれか私は彼にまるで捨て猫を拾うかのように拾われて、なのに猫のように可愛げがあるわけでもなく癒せるわけでもないただの人間の女で日々訳がわからないながらも生きながらえている。瞬いた瞬間、訳もわからずこちらに来たのだから、また再び戻る時も、一瞬。そうわかっていても、彼が極悪非道の海賊だと分かっていても心惹かれてしまった。いつか、今この瞬間にもまたあのビルの雑踏に戻るかもしれないのに。戻らなくてもいつ彼がこの気まぐれをやめて私を砂に変えてしまうかもしれない。そんな刹那的なものなのに。
恋は、もっとキラキラしたものだと思っていた。どう転んでも苦い味しかしない恋に小さく笑って、それでも、紙面上でしか見たことがない彼をこの目で見てこの耳で聞くことができてよかったと思えてしまうほどに彼に恋をしている。
「クロコダイルさんのことは一生忘れません」
いつものようにまた訳のわからんことを言うお嬢さんだなと呆れた声が降ってくる代わりに、雑踏の音。ほら。現実はいつだって甘くなくて、ビルが涙で滲んでいく。クロコダイルさんに私の声は届いただろうか。届かなくたって良い。クロコダイルさんには忘れられてたって良い。私が覚えていれば良い。あれは現実だったと。
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「おい」
聞いた覚えのある声が雑踏の中から聞こえた。だけどそんなことあるはずがなくて、ああ、懐かしいなあ、なんてあの短かった苛烈な海での日常に思いを馳せる。クロコダイルさんは今日も元気に極悪非道だろうか。もう気まぐれで拾った女のことなんてすっかり忘れてしまっただろうか。人を、信じられるようになっただろうか。なんて考えて全く想像できない姿に小さく笑ってしまった瞬間、壁にぶつかってしまった。そんなに夢現に思考を飛ばしてしまっていたのかと俯いてぶつけた鼻を押さえていれば、高そうな靴が見えて心が冷える。あまりに微動だにしないその壁は壁ではなく、人で、慌てて頭を下げて謝罪を口にした。
「す、すみません! 考え事をしていて!」
「なァおい」
ああ駄目だ確実に危ない人にぶつかってしまった謝罪じゃ足りないかもしれない。あのファンタジーな世界でクロコダイルさんに殺されずに済んだ命がこんなとこで呆気なく散ることになるなんて。ぼんやりして人にぶつかったせいで焦った頭は何も考えられなくてとりあえず頭を下げ続ける。
「……お嬢さんの一生は随分短ェんだな」
聞き覚えのある声に、心当たりのある言葉に、思わず反射的に視線を上げた先に、いるはずのない人がいて目を見開いた。
「一生忘れないんじゃなかったのか」
クハハ、とどこか楽しげに笑う姿は、何度瞬いても消えなくて、涙が溢れた。
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