タイトルを考えるのが死ぬほど苦手

 
これのクロコダイル視点
2021/07/09


 訳の分からない女だった。突然目の前に現れて、どこで売ったかなんて覚えていない復讐をしにきた何かかと思えば、ぽかんと不思議そうに一瞬瞬いたあととても楽しげに笑うから毒気が抜かれた。殺気も、血の匂いすらさせない平和ボケした人間なぞいつでも殺せるからと気まぐれに飼った女は、最初の印象通り訳の分からない女で飽きなかった。住んでいる世界が違うんですなどとのたまって浮世離れしたことを言ったり、おれのことを知っているくせにたまにビクついたりしつつも刷り込まれた雛鳥のようにそばに居続けたり。最初は平和ボケした民間人だから海賊でしかないおれと価値観やらなんやらが違うという意味で住んでいる世界が違うと言っているのだと思っていた。
 それが違うと気付いたのは、隣にひょこひょことついてくる小さな姿がなければ視線で探すくらいには懐に入れてしまっていたと自覚した瞬間で、そして目の前でお前が消えた瞬間。

「クロコダイルさんのことは一生忘れません」

 何を馬鹿なことを、と鼻で笑うつもりだったのに、目の前でまるで砂に溶けるように空気に消えた女の姿に唖然とする。ざらり、と砂が舞い上がり、かけらを探してもどこにも存在しなくて周りが砂で溢れかえる。
 住んでいる世界が違う。それは言葉通りでしかないただの事実で、だから目の前から急にいなくなったのかとぎりぎりと歯から音を立てながら理解した。理解したところで衝動が抑えられるわけもない。

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 色んな情報を駆使して、以前のおれなら鼻で笑って目も通しやしない資料に自ら目を通して、0.1%でも可能性があるならその地に赴いた。何百、何千調べたかなんて覚えてない。調べれば調べるほど諦めがつかなくなり、絶対に逃がさないと執着をあらわにして。瞬いた瞬間に景色が変わって辿り着いた場所に眉を顰める。見慣れないものばかりある中で、あの女が歩いているのを見つけて息が止まる。見つけた。おい、と思わず勝手に開いてしまった口が言葉を紡いでも気付かないほど、いまだに平和ボケしているのかぼんやりと歩き続けている。そのまま歩けばおれに激突するが、止める気もない。その平和ボケしたツラが驚きに歪めばいい。

「す、すみません! 考え事をしていて!」
「なァおい」

 なのに女は全く顔を上げず、ぺこぺこと頭を下げて謝罪を繰り返している。一生忘れないと言ったくせに、目の前に立つおれのことを考えず、どこの誰とも知らないやつだと勘違いして言葉を紡いでいる。

「……お嬢さんの一生は随分短ェんだな」

 音は苛立ちだったはずだった。なのに拗ねたガキのような言葉のせいで情けない台詞になってしまった。舌打ちをしようと舌を巻く前に、弾かれたように顔を上げた姿に僅かに驚く。幽霊でも見たかのような驚きように、おれのことを忘れたわけではないことがわかってさっきの苛立ちが嘘のようにかききえる。喉の奥から笑いが込み上げて途端に気分が良くなった。