タイトルを考えるのが死ぬほど苦手

 
2021/07/13


 おい、と不機嫌そうに降ってきた声に頭を上げればキャプテンがいて首を傾げる。今日は私、そんな不機嫌そうになられるような失敗はしてないと思うんだけど。

「爪を噛むな」

 眉間に皺が寄って強面が更に怖くなる。言われた言葉に視線を自分の手に向ければ確かに親指の爪のネイルに歯形がついていて、あ、と間抜けに声を漏らす。せっかく綺麗な爪にしてもらったばかりなのにもったいない。

「何を苛立ってた」

 ため息をこぼしながら面倒そうに紡がれる言葉とは裏腹に、人のことを気にかけてくれる優しさが滲み出てしまっていて思わずへらりと笑う。再度キャプテンを見上げれば私が場違いにも笑ってしまったからか射殺すような目で見られて視線を泳がせた。こわい。優しいのはわかっててもこわい。

「別に何も苛立ってなんかいませんよ。私も今言われて気付きました」
「退屈か」

 キャプテンの言葉に首を傾げる。ん、と顎で示された窓には見慣れた深い海の底が見えていて頭にはクエスチョンマーク。

「随分太陽を浴びていないからな。鬱屈してるのか」

 びっしりと隈を貼り付け、太陽の下でも楽しげな笑顔を見たことがないキャプテンに言われるのがなんだかおかしくて笑いそうになるのをどうにか堪える。そんなこと言ったらバラバラにされちゃう。

「キャプテンが一緒ならどこだって楽しいですよ」

 私の心からの言葉はハッ、と鼻で笑うどころか嘲笑されて、そのリアクションのせいで私は今鬱屈した気持ちになりましたよ。悲しい。

「爪を噛んでおいてよく言う」
「そんなこと言われても……癖って基本無意識なんですもん……」

 歯形のついたネイルをちらりと見やって困る。潜水艦にはもう慣れたし、寧ろ明るい地上にいるときの方が眩しすぎて早く船に戻りたいな、なんて思うくらいだからこの船は居心地がいいんだけど、なんだか責められているような視線に困ってしまう。

「キャプテンだって言われてから気付く無意識の癖とかあるでしょ?」
「……」
「ほらあ!」

 無言は肯定だからとキャプテンをこれ幸いとばかりにつつく。癖なんて自分じゃどうしようもないことなんだからそんなに責められても困る。キャプテンだって言われて気付くような癖があるならわかるでしょうに。それにしてもキャプテンの癖ってなんだろ。その張り付いた隈をこしらえる夜更かし? 機嫌の悪そうな表情? うーん。

「うるせェな。おれのは誰にも迷惑かけるようなもんじゃねェから良いんだよ」
「私だって誰にも迷惑かけてないですよ」
「お前のはお前の体が傷付いてるだろうが」

 睨み付けながら吐き捨てられた言葉に固まる。ひい。キャプテンのそういう、厳しいようで仲間にはでろでろに甘いところ、こわい。急にくるから心臓に悪い。

「じゃ、じゃあキャプテンの癖はなんなんですか、ほんとに誰にも迷惑かけてないんですか」

 どんな些細な重箱の隅でもつついてやろうと思って放った反撃の言葉のはずだったのに、キャプテンの頬がほんの少し緩んで余計に心臓が早鐘を打つ。

「好きな女の、……お前の観察。迷惑かけてねェだろ?」

 ぶわりと全身が真っ赤に茹だって心拍数がありえないほど上がったのが自分でも理解できた。目の前のキャプテンにも聞こえそうなほどうるさく高鳴る鼓動に負けないようになんとか口を開く。

「私の寿命が縮みます……」

 絞り出した声は震えてしまったし、やめてくださいとは言えなかった。