タイトルを考えるのが死ぬほど苦手

 
2021/07/14

死ネタ注意


「私、クロコダイルさんが好きなんです」

 クロコダイルさんの冷たい目が私を見下ろす。クロコダイルさんの冷え切ってしまった心を私が溶かせてあげられたら、なんてそんな馬鹿げた考えは持ったことがない。周りの人間が私の恋心を賭けの対象にして勝手にそんなことを言い囃していて迷惑極まりない。だって私は今のクロコダイルさんに惹かれたんだから。温かい目をしたクロコダイルさんなんて、私の好きなクロコダイルさんじゃない。冷たく見下ろし、私の言葉なんて全く響いていない、いつもの姿に惚れ惚れする。
 ふん、と馬鹿馬鹿しそうに鼻を鳴らす姿も愛しくて、眩しくて、目を細める。愛だの恋だの、かけらも信じないたった一人のクロコダイルさんが大好きで。

「なんだそれは」

 いつも通り視線が私を素通りして、珍しいことにまた私に戻る。正確には、私が持っている壺に。全財産をはたいて買った、少し大きめの、綺麗な壺。クロコダイルさんのそばに置いても霞むことはないだろう壺。霞むことはないのは今、クロコダイルさんの視線に止まったことで証明されて思わず頬が緩む。

「これ、差し上げます」

 眉を顰める姿もまた素敵で見惚れそうになるのをどうにか堪えて言葉を紡ぐ。

「私のこと、砂にして、この中にいれてください。自分で壺に入ることはできないので、そこだけクロコダイルさんの手を煩わせてしまって申し訳ないんですけど……」

 冷たく濁った瞳が瞬いて、なんだか一瞬幼く見えた表情に首を傾げる。おかしなことを言っている自覚はあるけれど、クロコダイルさんの心を揺らがすようなことを言った覚えはない。だって、私が死のうが生きようが、どうでもいいはずだから。でも私はクロコダイルさんの手で砂になりたくて、最期の視界はクロコダイルさんが良くて。クロコダイルさんがこの壺に砂になった私を詰めなくたっていい。壺ごと私の存在なんて忘れてしまってもいい、ただの自己満足。砂にさえしてもらえれば私は幸せで。ちょっとした詐欺の手口。壺に入れたりなんだりは面倒だけど砂にするくらいなら別に良い、だなんて思ったりしてくれないだろうか。そんな馬鹿げた考えからのお願いで。

「……おれのことが好きで、砂にされたいのか」
「はい」

 まさか理由を確認されるとは思わなくて驚いたけどすぐに頷く。だって別に理由なんてクロコダイルさんは興味がないだろうし。
 立派な壺だったから少し重かったのに急に手から重みが消えて瞬く。クロコダイルさんが私の壺を鉤爪に引っ掛けて持って、私を見下ろしていた。その目は相変わらず冷たくて、かっこいい。クロコダイルさんの手が私に伸びて、ざらり、と喉の奥から水分が枯れていくのがわかった。

「ありがとうございます、好きです、クロコダイルさん」

 クロコダイルさんで視界がいっぱいで、なんて幸せなんだろうと胸が暖かくなりながら声を絞り出したつもりだけど、音になっていたかどうかはわからなかった。