タイトルを考えるのが死ぬほど苦手
← →
これのクロコダイル視点
2021/07/14
死ネタ注意
▼
おれのことが好きだとのたまうのに何も求めない不思議な女だった。大抵の女は金や物や、消したい人間をおれに望んでその身を投げ打ってきた。自主的なのか、裏に誰かいて無理矢理なのかは知らないが、とにかくこれをするからあれをしてくれ、の交渉の言葉だったのは確かで。それなのにあの女は何も求めず、何も差し出さなかった。好きです、と言う言葉は交渉じゃないのならなんの役にも立たなくて毎回素通りした。それでも懲りずにおれとすれ違う度にその言葉を吐いていた女を最期に見た時に、献上品のような立派な壺を抱えていたから視線を戻したのがおれの間違いだった。
差し上げます。その言葉に、とうとう交渉を覚えたのかと眉を顰めたのも束の間、申し訳なさそうに紡がれた言葉に一瞬頭が真っ白になった。何を言われたのか分からなかった。これをやるから誰かを砂にしてくれ。明け透けに言われたことはないが、そう言われたことは何度もある。その度におれの利益になるならば恩を売って消してやったこともあるし、何の利益にもならない身の程知らずな頼み事をする馬鹿をその場で消したことも数知れない。だが、私を砂にしてくれ、そう言われたことは一度もなくて、一瞬思考が弾けた。
意味のない、ただ言葉をなぞるだけの確認をした。壺を絡め取って、望み通り手を伸ばした。嬉しそうに溶けていく様をこの目でじっくり見た。手を伸ばしたときに気付けば良かった。なんの利益もないのに、言うことを聞いてやろうとしたことの理由に、気が付けばよかった。初めてじっくり見た笑った顔は悪くないと思ったのに、それをもう二度と見られなくなることに気が付けばよかった。
気付いた時には女の形はとうに消え失せ、女が差し出した壺と、砂しか残っていなかった。壺の中にある砂を見下ろしたってもう遅い。
← →