タイトルを考えるのが死ぬほど苦手
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2021/07/20
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「サンジくんも座って」
いやおれは、と口を開いたサンジくんを睨む。へら、と困ったように笑われて全身で不満を表す。それなのにサンジくんは彼の城から足を動かそうとしてくれなくてため息を吐いた。これで、何度目のやりとりだろう。静かになった夜、好きな人とふたりきりで話せる時間が嬉しくて、女の人のことならなんでも断らずに受け入れちゃうサンジくんの負担にならない程度の頻度で押しかけて、最初はカウンター越しのおしゃべりでも満足してた。だけど、ふたりきりの空間に慣れた瞬間いつもカウンター越しなことにふと気付いて眉を顰めた。これじゃあデートじゃなくて(そもそも私が勝手にデートだって思ってるだけでデートじゃないけど)、ただのバーテンダーとお客様。それに気付いてしまってからは合間合間にこうして、こっちに座って、と隣の席を叩いて促しているのに一度も首を縦に振ってくれたことはない。女の人のお願いならなんでも聞いてくれるサンジくんが、こっちに座って、のお願いは頑なに聞いてくれない。
「座ってったら」
「あ、レディ、おかわりはどう?」
あからさまに話を変えられて、ムッとする。そんな私を見ながら、私のマグカップに温かくて良い匂いのするミルクを注がれた。
「……どうして座ってくれないの」
悲しくなって、思わず声が震えてしまう。そんなに難しいことを言ってるわけじゃない。ただ、隣に座ってほしい、それだけなのに。
「私のことが嫌い?」
「なッ、そんなわけ、」
「ほんとは早く部屋に戻って寝てほしい?」
声が震えてしまったことを自覚した瞬間、悲しみが溢れ出てしまってぽろぽろと言葉が落ちていく。サンジくんの焦った声が聞こえるけど、それでも俯いている私のそばには絶対に来ないサンジくんにとうとうぽとりと机に雫が零れ落ちた。ひゅ、と息を呑む音が聞こえたけど、泣いている私からした音なのか、驚いたサンジくんから聞こえた音なのかわからないまま顔を両手で覆う。困らせたいわけじゃなかった。ふたりきりで話せるだけでも十分幸せなはずだった。それなのに恋心は欲張りで、もっと、と望んでしまった私が悪い。今のままでも十分幸せだったのに、私がぶち壊した。この静かなふたりきりの夜はもうきっと、今日が最後。
「れ、レディ、泣かないで、なんで泣くの、ごめん、おれが悪いんだよ、嫌いなわけねェよ、レディとふたりきりのこの時間が永遠に続けばいいなって思ってたんだ」
上から降ってくる慰めの言葉に首を振る。サンジくんの慰めの言葉は、女の人なら誰でももらえるもので、心は晴れない。
「じゃあどうして、……どうして、隣に座ってくれないの」
言葉を詰まらせるサンジくんに、それが答えだとまた涙が溢れた。告白もしていないのに、私が壊してしまった柔らかな空間。後悔しても遅くて喉を引き攣らせる。
「永遠に続いてほしかったんだ、だから、……ここに、キッチンに立ってたらおれはコックでいられるから、」
サンジくんの言葉の意味がわからなくて思わず顔を上げる。サンジくんはどこにいたってコックでしょう? 顔をあげた先に見えたサンジくんの表情は、泣いてる私なんかよりよっぽどつらそうで思わず涙も止まる。
「隣に座ったら、……この時間をぶち壊しちまうから」
意味がわからなくて首を傾げた。
「……こっち側にいたら、おれはコックで、……だけどレディの隣に座ったらもう、……触れたくて、口説きたくて、我慢できなくなっちまう。そんなことしたらもう、レディは夜にここに来てくれなくなるだろ? そんなおれの勝手な気持ちで泣かせてごめん、でも、……この時間を壊したくなかったんだ」
ぽつぽつと落とされた言葉に固まってただサンジくんを見上げることしかできない。都合のいい言葉ばかり聞こえた気がする。これも、サンジくんのいつものナンパな言動なんだろうか。傷付きたくない私は臆病にもそんなことを考えてしまって、ぶつけられたサンジくんの視線にぎゅっと胸が締め付けられた。
もう一度だけ、勇気を出してみても大丈夫だろうか。困らせないだろうか。深く息を吸って、覚悟を決める。
「……サンジくん、お願い、隣に座って」
涙に濡れた私の言葉にサンジくんが目を見開いて固まった。
「れ、レディ、おれの話、聞いてた?」
狼狽えるサンジくんの目をまっすぐ見上げて、もう一度呟く。
「隣に、座って」
静かな空間に、コツ、と足音が響いて緊張に強張っていた体がほどける。ゆっくり私のそばに近寄るサンジくんのコツ、コツ、とした足音にまた緊張しそうになるけど、それよりもサンジくんが彼のお城から出てきてくれたことの方が嬉しくて頬が緩んだ。私のすぐ横で一瞬戸惑って固まったサンジくんを見上げる。ぱちん、と視線が絡んだ瞬間、腕が伸びてきて抱きすくめられて心臓が跳ねた。縋るように髪に顔を埋めたサンジくんの背中に腕を回して小さく笑う。
「隣に座ってって言ったのに」
「おれはキッチンから出たら我慢できなくなるってちゃんと言ったよ」
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