タイトルを考えるのが死ぬほど苦手

 
2021/07/21


 おい、と呼び止めれば腕の中に抱えた洗濯物の山に埋もれているせいで不思議そうな目だけが見えてため息を吐く。引ったくるように洗濯物の山を全部とってもおれの顔は少しも洗濯物には隠れないから顔を合わせやすくなった。

「わ、ゾロ、返して」

 手伝っているにも関わらずまるで奪ったかのような反応を返しながら手を伸ばす姿に眉を顰めた。手伝う、と低く呟けば目を丸くして、それを放って先に足を進める。おれが一歩二歩進んだだけで待ってと小走りになった靴音に鼻を鳴らして歩みを早めた。情けない声を出しながら追いかけてくる気配が、……気配が、なんだ。わからん。急な疑問がわいて空を仰ぐ。無意識に立ち止まってしまったせいかおれの急ブレーキに対応できなかったのかどん、と背中にぶつかられて情けない声が聞こえた。

「壁……」
「あ?」
「なんでもない」

 訳の分からない言葉に視線を下ろせば横に並んでぶつけたらしい鼻をさすっていて思わず笑う。

「最近のゾロは機嫌がころころ悪くなったり良くなったりよくわかんないね」
「あァ?」
「また機嫌悪くなった……」

 僅かに怯えが滲みつつも呆れたような目で見られてなんとなく居心地が悪くなる。別にそんなことはないだろ。別に。だって機嫌が良くなる理由も悪くなる理由もない。おれはいつも通りだ。

「手伝ってくれるんでしょ? ありがと」
「別に」

 さすっていた手がどけられた鼻の先がほんの少し赤くなっているのが見えて小さく笑う。別に礼をせびるために手伝ったわけじゃないが礼を言われれば気分が良くなるのは普通のことで、別にころころ機嫌をなおしたわけじゃない。そもそも機嫌悪くなってねェし。

「いつもサンジくんに頼りっぱなしだから少しでも手伝いたくって」
「チッ」

 その口から出てきた名前を聞いた瞬間、手の中に抱えているもの全てを甲板に叩きつけたくなる衝動に駆られて舌打ちをするだけでどうにか堪える。

「相変わらず仲良いんだか悪いんだかわかんないね」
「うるせェさっさと終わらせんぞ」
「はーい」

 一度手伝うと言った手前約束を反故にしたくなくてイライラしながら吐き捨てた。ロープを張りおれの持っている洗濯物から一枚ずつ布を取ってはシワを伸ばして干し始めた姿を眺める。少しずつ横にずれて干していくのにおれもただぼんやりついていって、今更ながらただ洗濯物の山を持って着いて歩く置物のような状態にそもそもこれが手伝いになっているのかがわからなくなって眉を顰めた。その間にもテキパキと一枚一枚腕の中から消えていく布に、そのスピードに置いていかれないようぴったり横について歩く。これ、役に立ってねェな。でも横から伺い見える表情はどこか楽しげで、まあ楽しそうならこれでいいか、と眉間の皺を緩めた。

「よし、終わり! ゾロが持ってくれたおかげでサンジくんに見つかる前に終わったから助かったよ、ありがと……ってさっきまで機嫌良さそうだったのになんでまた怖い顔するの」

 ゾロの顔は慣れててもちょっと怖いんだからね、なんて失礼なことを言って呆れられても別にいつも通りに突っ立ってるだけだ。あえていうなら、お前を手伝ったつもりなのに間接的にコックの手伝いになったことが気に食わないだけ。たぶん。

「レレレレディ洗濯干してくれたのォ?! ごめんねありがとうお礼にとっておきのデザート作るね何がい」

 自分の城から出てきたコックがぐりんぐりんと体をくねらせながら近付いてくるのを見て反射的に手首を引いて距離を離す。わ、と驚きながらもおれのそばに素直に引かれるのに満足したのも一瞬。レディから離れろだのなんだのうるせェ外野の声に気が散りそうになりつつも引いた手首があまりにも細くて口が間抜けに開いた。お前これ折れねェのか。おれがきゅっと力を入れただけで砕けそうなのが怖くて少しだけ力を緩める。オイコラ、と器用におれにだけ凄みながら近寄ってくる金髪頭から一歩ずつ後ずさる。勿論手首は掴んだままだから間に挟まれながらもあわあわとおれに着いてこざるを得ない姿がなんだか間抜けで面白い。

「おいてめェこらマリモ! レディの華奢で愛らしい手ェ離せコラお前が掴んだら折れるだろうが!」

 面白い、のに、その顔を存分に笑いたいのにとにかくノイズがひどい。さっさと自分の城に帰れ。

「うるせェな! ちゃんと気ィつけてる!」
「なんでふたりともそんな簡単に折れる前提で話すの? そんな簡単に人間の手首は折れないよ? やめて?」