タイトルを考えるのが死ぬほど苦手

 
2021/07/21


「それ、折れないのか」

 主語がなかったせいでどれ?と思わず首を傾げてしまう。唐突に呟かれた言葉の意味が本当にわからなくてクロコダイルさんを見上げれば鉤爪で私を指し示していて余計に分からなくなってしまった。だって私、今、何も持っていない。
 クロコダイルさんは顔に縫い目だってあるし、鉤爪だし、どこからどう見ても海賊の風貌でほんの数ヶ月前にはじめて出会った時は怯え散らかしていたけれどとても紳士で優しい。見た目で損する人だ。部下もそれなりにいるらしくて、そんな立場の人はきっと忙しいだろうに毎回目が合えばわざわざ近寄ってまで会話をしてくれる優しい人。
 そんな優しいクロコダイルさんはいつもどこからともなくふらりと現れて時間がある時は一緒に歩いている時は荷物を全て持ってくれている。いつも遠慮してお断りしているのだけど毎回いつの間にか私の手から荷物が全てなくなっていて、クロコダイルさんが全て腕に収めているから結局甘えてしまっている。そんなわけで私はそれ、と言われても何も持っていなくて。

「折れるだろう」

 何がですか、と問う前に鉤爪が器用に私の手首を絡め取った。

「……エッ手首のことですか怖」

 思わず一瞬間が空いた。だって衝撃の事実に脳が理解することを拒んだ。私の反応に気分を害したのか眉がぴくりと動いたけれど、私の一週間分の食料が入った買い物袋を腕に抱えている庶民的な姿にそこまで恐怖は感じない。いや嘘。折れるだのなんだのは怖い。

「おれがいなかった時はどうしてたんだ」
「何がですか」
「こんな荷物なんざ持ったら折れるだろう」
「……折れませんけど?」

 さも当たり前のように言われてまた一瞬脳が理解を拒んだ。

「クロコダイルさんいつも持ってくれてありがたいですけど私自分の買い物くらい自分で持てますからね。折れませんよ人間、そのくらいじゃ」
「……折れるだろう」

 引っ掛けられた手首がゆっくりとほんの少し持ち上げられる。観察するようにじっくり眺められてなんだか居心地が悪い。いくら観察しようと折れません。

「折れません」
「折れる」
「……折れませんってば」
「折れる。だからこれからは何も持つな」
「え?」

 手首が解放されたかと思えばまた不思議なことを言われて声が漏れる。そんなこと言われたって私にも生活はあるし、そう口にしようと顔を上げればとても楽しそうな表情で私を見下ろしていて自然と口が閉じた。もご、と口籠ってしまったけれどそれでもやっぱりそんな無茶なこと言われたって困る。

「大丈夫だ、これからは常におれがそばにいる」

 今日のクロコダイルさんの言葉はまるで異国語のようで私の頭じゃ瞬時に理解することができない。

「海賊から逃げられると思うなよ、お嬢さん」

 はじめて知ったクロコダイルさんの素性に、ひゅ、と喉の奥が鳴った。