タイトルを考えるのが死ぬほど苦手
← →
2021/07/22
▼
「ふたりっきりだねえ」
そうだね、とスマートに返したかったのにおれが出せたのは言葉じゃなくて鼻血だけ。ぽとぽとと落ちていく鼻血と、輸血パックの血。たぶん出ていく血の方が多いと思う。ごめん、チョッパー。おれの血が貴重なこともわかってるけど、二年の地獄のせいで免疫がすごく低くなってるのも理解してほしい。
「だいじょうぶ?」
おれを心配するとろけるような声におれが溶けそうになる。鼻血はもう止められないから垂れ流しだ。大丈夫じゃないけどレディが目の前にいるからおれァしあわせです。
「人魚ちゃんたち、みんなかわいいね」
「ゔ」
「あ、ごめん」
天国を思い出して鼻血が出るスピードが上がって呻いた。レディは全く悪くないのに申し訳なさそうにティッシュを持って鼻血をそっと拭いてくれる。優しい。嬉しい。でもごめん。逆効果です。鼻血で鼻はぶっ壊れてるはずなのに距離が縮んだおかげでレディの良い匂いがするし、おれだけをうつしてくれるその目が宝石のように綺麗で、優しく差し伸べてくれる手も可愛らしくて、全部が愛しすぎる。
「……サンジくんが王子様だったら人魚姫も泡になって消えなさそうだよね」
「へあ?」
優しく拭われる手つきにうっとりしていれば唐突に浴びせられた言葉に間抜けな声が出てしまった。泡?
「知らない? 絵本の人魚姫」
「えほん……ああ、絵本の」
「サンジくんはレディを間違えたりしないでしょ?」
くすくす笑いながら言われた言葉は褒め言葉なのかレディにだらしないとちょっとした可愛らしいお小言を言われたのか判断がつかなくてへらりと笑う。確かにレディをみすみす泡にさせるようなことはないと願いたいところだけども。
「間違えたくもないし泡にもなってほしくねェから一緒に解決法探すなァ」
「え?」
「ん?」
麗しのお姉さまたちの髪の毛も切らせたくねェし、その前になんとか声も足も元通りにしてあげたいんだけど。なんて、血の足りなくなった頭じゃ何もいい考えが思い浮かばなくて唸る。うんうん考えていればレディが新しいティッシュに手を添えながら不思議そうに首を傾げていておれも思わず首を傾げる。
「探すも何も、王子様と人魚姫がめでたしめでたしになるのが解決法だよ?」
「だっておれレディとめでたしめでたしになりてェもん」
「え、」
「でも人魚姫のことも泡になんざなってほしくねェからちょっと待たせちまうけどちゃんと解決して、もうひとりのプリンセスにもちゃんと謝って、そんでレディと末長く幸せに暮らすから……────あ、」
優しく鼻を拭ってくれていたレディの手が止まって、さすがに血も止まったのかと安堵して鼻に手を伸ばしたのが間違いだった。普通に、ぬと、と鼻血の感触がして驚いたし、驚いた拍子にさっきぽろぽろしゃべってしまった言葉を思い出す。いくら血が足らなくて頭が働かなかったからってぺらぺら喋りすぎた。真面目に受け取ってもらえないのも悲しいけど、あまりにも格好がつかなすぎる告白でしかないからおれのいつもの戯言だと受け流してもらえてると助かるなァ、なんて恐る恐るレディの顔を伺い見て固まる。真っ赤な表情でティッシュを握りしめる姿におれの体温も上昇した。
← →