タイトルを考えるのが死ぬほど苦手

 
2022/03/11


 ようやく見つけたゾロはなんだか不思議な佇まいをしていて思わず二度見した。大きな両手が隠れるくらいの色とりどりの花束を、掲げていた。持っていた、じゃない。掲げていた。緑の腹巻きが見えなくなるくらいの花を両手のひらの上にそっと置いて、まんじりとその花を見下ろし不思議な表情で立っていた。ゾロ、と声をかければ、気配を感じることすら忘れていたのか飛び跳ねるように顔を上げてひとつの目と視線が絡む。普段よっぽど極悪人のような面構えをしているゾロのその表情が、迷子になった幼児が母親を見つけた時のような、だけどそんなにあからさまにホッとしたような視線を向けたくせに、今度は一瞬で悪いことをした現場をその母親に見つかったかのような罪悪感たっぷりの表情に変えておどおどとしている。おどおど、している。あのゾロが。どんな極悪人よりも極悪人のような顔をして、どんな敵にも恐れを抱かない、世界一を目指す剣豪が、叱られたくない幼児のような恐れを抱いている。その姿が不思議で、思わず小さな子に声をかけるように優しい声音で尋ねた。

「その花どうしたの? 綺麗だね」
「……買った」

 買った。……買った? ゾロが? 小遣いがあればナミちゃんの借金なんか恐れもせずただひたすらお酒にだけ注ぎ込むゾロが、花を、買った?
 それそのものも大事件ではあるけれど、じゃあ尚更ゾロの佇まいが不思議としか言いようがなくなる。預かった、とか、貰った、とかなら、ぼんやり突っ立ったまま困ったように普段扱うことのない花を掲げてどうしたらいいものかわからなくて固まってても不思議じゃない。だけどゾロは買ったと言った。なら自分で手に入れようと思って手に入れたんだからそんなふうに困惑して固まる必要もないし、まるでゾロ自身が置物で花瓶かのような謎の持ち方(置き方?)をする必要もないはずなのに。
 一向に動く気配もなく固まったままのゾロに距離を縮めて花束を覗き込む。買った、わりには、何本かの花がへにゃん、としおれているような? 不思議に思ってゾロを見上げればまた、叱られる前の幼児のような顔。

「お前みたいだと思った。お前が持つと似合うと、そう思って」

 実は買ったんじゃなくて拾った、強奪した、そんな懺悔をしているかのように苦々しく呟かれた言葉はまるで正反対で、思わず目を丸くする。

「花が、……花の、持ち方が、わからねェ。普通に掴んだつもりだった。なのに、」

 へにゃんとしおれた花の理由がわかって思わず頬が緩みそうになるのを堪える。だってここで微笑んでしまうのは、いくら本当に微笑ましい光景だとしても一生懸命に困っているゾロを傷付けてしまう気がした。だからただ、解決策だけを口にする。

「私に触るときと同じくらいの力で大丈夫だよ」

 そう言った瞬間、ゾロの石化が解けた気がした。そっと、優しく優しく花束の下の方を片手で掴んで、へにゃんとならないその花たちを見てほっと肩の力が抜けたゾロ。
 客観的に見るとほんの少し照れくさい。だって、ゾロはあの花束を私と思って触れている。私はゾロにあんなふうに優しく触れられているのか。あんなふうに優しい目で、壊さないように、優しく、愛しい目で。その視線がそのまま私に滑って胸が高鳴る。そっと優しく掴んだまま、私の方へ花束を差し出す。やる、とぶっきらぼうな言葉。だけど私はそこに至るゾロの心境を知っている。嬉しくてくすぐったくて今度こそ頬を緩めてしまった。だけどゾロはもう叱られる寸前のような表情はしていない。だから微笑んでも大丈夫。

「ありがとう」
「……やっぱお前が持つと似合うな」
「ゾロが持ってるのも可愛かったよ」

 ようやく空気が和らいで、ゾロが選んでくれた花束に顔を埋めて匂いを嗅いだ。うっとりする花の香りに気が緩んで思わず呟いてしまった言葉のせいで、私を見下ろして和らいでいたゾロの表情が顰めっ面に変わってしまう。だけど三つの金色が光る耳たぶがほんの少し赤く染まっていたから安心してくすくす声を出して笑った。