タイトルを考えるのが死ぬほど苦手
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2022/06/04
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微笑ましく見守っていた彼女がきょろきょろと髪を揺らして辺りを見回し始めたのが不思議で首を傾げる。どうしたの、と声を掛ければ辺りを見回しつつもパラソルの下で寛いでいる私のもとへ駆け寄ってきてくれる姿に頬が緩む。隣へどうぞ、ともうひとつのベンチを手で示せば私の方へ体を傾けながら座った素直な彼女にもう一度尋ねる。
「それで、どうしたの? 何か探し物?」
目があって微笑みあって一瞬目的を忘れてしまったのか、ハッと思い出したように目を瞬かせてまた辺りを見回すから私も同じように辺りを見回してみる。敵意は感じない、いつも通りのどかな海賊船の周りは海と空だけ。何を探しているのかがわからなくて結局彼女へ視線を戻した。
「あのね、最近不思議な鳴き声が聞こえるの」
「鳴き声?」
ベンチとベンチの間のテーブルに肘をついてこっそりと声を潜めて私に話しかけるから、つられて私も声を潜める。この海と空しかない周りで鳴き声。鳥、もしくは海獣かしら。この世界にはまだまだ知らない生き物が存在するから、その未知の生き物がいるかもしれないという彼女の情報に私の知識欲もつつかれる。私も知らない新種の生き物を彼女と見つけられたなら新たな歴史の一ページに彼女と私の名が紡がれて永遠に刻まれる。もし見つけたそれが知っていた生き物だったとしても、好きな人とこうして内緒話のようなことができることが嬉しいからがっかりなんてしない。知っていれば彼女に教えてあげることができる。知らないことを教えたときの彼女のただ真っ直ぐにきらきら光るその瞳は何度見ても慣れることはないし、何度だって見たいものだからどっちに転んでも私にとっては幸せ。
「どんな鳴き声なの?」
「すっごくかわいい鳴き声。でもいつもすぐいなくなっちゃうみたいで見つけられないの」
その生き物がまだ近くにいると思っているのかひそひそと話しながらも見つけられなくてしょんぼりする姿はとても愛らしい。
「かわいくて、幸せになる鳴き声なの」
「どういうこと?」
「なんだかとっても幸せに満ち溢れた鳴き声で、聞いてる私も幸せになるの。だからロビンちゃんにも聞いてほしくて」
見つけられなかったことについさっき落ち込んでいたのに、その鳴き声を思い出したのかふわりと幸せそうに緩んだ表情に瞬く。続けられた幸せを共有したいと思ってくれた彼女の気持ちに、じわりじわりと胸が温かくなって私の頬も思わず緩んでしまう。
「素敵ね、私も聞いてみたいわ」
私が同意しただけで更に緩む頬に、それで、具体的にはどんな鳴き声なの?と今まで抽象的でしかなかったその鳴き声を具体的に尋ねる。
「でれし!」
「え、」
「デレシ」
にっこり笑って彼女の口からこぼれた懐かしい音に固まって、視線が泳ぐ。またきょろきょろと髪を揺らして辺りを見回し始めた彼女は動揺した私に気付かない。彼女の紡いだ音は、懐かしい人の笑い声。だけどその人がここにいるはずがない。その人を知っているのは私だけ。笑うと幸せになる。そう教えてもらった。あの人に守られて泣きながら無理矢理音にのせたあの時はわからなくなってしまったけれど、気付かないうちに口から音がこぼれおちてしまうくらいには私は今、とても幸せで、ぐ、と胸が詰まる。
「ロビンちゃん、聞いたことある?」
「……あるわ、」
きょろきょろと辺りを見回していた彼女が驚いたように私に視線を戻して頬を緩ませる。あなたが聞いた音とは違うけれど、その笑い声を聞いたことがある。
「聞いたことあったんだ! 幸せになる鳴き声だよね?」
「そうね」
「近くにいるのかな? 姿は見たことある? 鳥かな? 海獣かな? ……あ、ごめん」
矢継ぎ早に質問を繰り出されて口を挟む隙がないのに気付いたのか照れたように笑いながら身を乗り出していた背中を背もたれにきちんとくっつけて落ち着いた彼女と視線が絡む。
「今度は一緒に聞けるといいな」
「すぐに聞けるわ」
そうだといいな、と嬉しそうに笑う私に頷く彼女に愛しさが募る。私も気付かないうちに幸せが滲み漏れていた。だから彼女の願いはすぐに聞き届けられる。だって、あなたといるといつだって幸せだもの。
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