タイトルを考えるのが死ぬほど苦手

 
2022/06/06


「今ウワッて顔したでしょ」
「……してねェ」

 海賊相手にこんな言葉を向けるのもおかしいとはわかってはいつつも根がいい人なトラ男は明らかに顔を顰めたのにも関わらず否定をするから思わず笑う。そんな私を見て余計に眉間に皺を寄せるから慌ててごめんごめんと謝罪を口にして一歩近付いた。

「そんなに嫌ならいつものやつで逃げたらいいのに」

 手の形をソレにして言えば更に深まる眉間の皺。別に同盟だから目があえば絶対会話をしなくちゃいけないなんてルールはないし気にしないから無視すればいいと、良かれと思って言ったのに声をかけたさっきより酷い顔をするから誤魔化すように笑って手を下ろす。

「あー……っと、能力使うのにも体力削られるんだっけ、気安く言ってごめん」
「……そもそも嫌だと言ってねェだろ」

 思った以上に気まずい空気が流れて中途半端に笑うことしかできなくなる。どうしよう。やっちゃった。声掛けなきゃよかった。申し訳ない。あまりにも気安く話しかけすぎた。ルフィとトラ男は友達で、だからつい、私も友達のように思ってしまって。ルフィとトラ男が友達だからって、私とトラ男も友達になるわけじゃないのに。なんだかんだ面倒見の良い根が良い人をただ困らせてしまっている。謝れば謝るほどドツボに入る気がして謝ることもできなくなってしまって口をもごつかせる。

「ええと、ルフィならたぶんあっち方面にいると思うよ」
「今は別に会う必要がない」
「えと、そ、そう?」

 人差し指で町外れの森を指し示してもちらりと森を見ることもしない。気不味い気持ちを抱えたまま指を下ろす。

「ええと、ごめん、……次からは声掛けないから、その、本当に邪魔してごめんね、それじゃあ」

 また、と言ってしまってから後悔する。次からは声をかけないのに、また、があるはずがない。馬鹿な私を脳内で平手打ちしながら踵を返す。反省。トラ男でわかってよかった。ルフィの他の知り合いで同じことをして切り刻まれたくはない。根が良いトラ男だから気まずい空気が流れただけで済んだけど、他の海賊だったらこんな空気だけじゃ済まないかもしれなかった。
 ブン、と重い音がして背後でトラ男が能力を使ったのがわかる。心の中でもう一度、それじゃあ、と別れの挨拶をした瞬間、目の前が眩んだ。思わずフラついて前を気にしていなかったせいで何かとぶつかる。ぶつけた鼻をおさえながら眩んで役に立たなかった目を瞬かせて改めて写った視界に痛みも忘れて間抜けに見上げるだけ。

「……トラ男、」
「嫌だ、とおれが言ったか?」
「へ、?」
「嫌だなんて一言も言ってねェだろ」

 私が移動したのか、トラ男が移動したのかはわからないけど、とにかくぶつかったのはトラ男で、目の前にトラ男が立っていて混乱する。

「あまりにも無防備だから苛ついただけだ」
「む、ぼうび?」
「一人行動は危ねェだろ」

 でも目の前のトラ男はひとりだ。そんな表情が思い切り顔に出てしまったのか、おれはいい、だなんて棚上げされて思わず笑う。笑った拍子に気まずさはどこかへ飛んでいった。私が勝手に怒ってると勘違いしただけで、同盟相手とは言えよその海賊相手の心配をするんだから、やっぱりトラ男は根が良い人だ。

「勘違いしてごめんね、トラ男はやっぱり優しいんだ」

 勝手に勘違いしたことは謝罪すればまた顔を顰められたけど、わざわざ体力を削る技を使ってまで私を引き止めて心配してくれたトラ男に気不味くなる必要はもうない。

「そんなことよりちゃんと名前で呼べ」
「え?」
「名前。知らねェのか」
「トラ男、だめ?」
「それはおれの名前じゃねェ」
「でもトラ男も麦わら屋とか言って名前で呼ばないじゃん」

 怖くないとわかった途端に駄々まで捏ねてしまう。だって、トラ男って響き、可愛いから気に入ってるのに。

「お前のことはちゃんと呼ぶ。だからお前もちゃんと名前で呼べ」
「別に私もあだ名つけてくれていいよ?」

 私だったら何屋になるんだろう。自分で考えて思わずわくわくしていたのにトラ男の眉間の皺がどんどん深まっていっていて調子付いてしまったことを悟る。いくらなんでも相手が優しいからって調子に乗りすぎた。

「お前がそう呼ばれたいならそう呼ぶ」

 反省をしようとしたのに結局またため息を吐きながら妥協してくれる根が良すぎる海賊に思わず頬が緩む。だが、といつもより幾分か低くなった声が私の耳を滑って思わず後ずさる。何を言われるかわかるはずがないのに、次に紡がれる言葉を聞いてしまっては後戻りができなくなる予感がして。

「だが、おれは好きな女からはちゃんと名前で呼ばれたい」

 声が、目がまっすぐ私を貫いて息を呑むことすらできなかった。