タイトルを考えるのが死ぬほど苦手
← →
2022/06/07
▼
「見つけた」
ぴく、とレディの細い肩が揺れて驚かせてしまったことに申し訳なく思う。それでも見つけられたことにホッとして、暗い食糧庫の片隅で膝に顔を埋めたまま動かない愛らしい丸い塊に近付いて隣にしゃがみ込んだ。すん、とレディから悲しげな音が聞こえておれの眉も下がってしまう。
「なにか悲しいことでもあった?」
震える息だけが返ってきて言葉は返ってこない。それでも、あっち行って、と言われないだけで受け入れられた気持ちになって嬉しくなる。レディが悲しんでるのは全然喜ばしくないけど。
「レディのそばにいてもいいかい?」
頷いたレディの髪がさらりと肩を撫でて落ちるのを眺めてホッとした。あっち行って、とも言われていないけど、いいよ、と言われたわけでもなかったから、ちゃんと許可が取れて安堵する。どうしたらレディの憂いごとを解決できるか頭を働かせながらしゃがみ込んだだけで浮かせていた尻を床に落ち着けた。
「撫でてもいい?」
「……だめ」
「わかった」
頭を撫でようとして、拒絶。よかった、勝手に撫でないで。やる前の拒絶でも心がへし折れそうなのに、やってしまってから拒絶されたら自分への反省と後悔と軽蔑と色々が押し寄せて死んでたかもしれない。触れるか触れないかの距離に肩を並べてそっと寄り添うだけの時間で、どうレディを慰めればいいのかを考える。
「さんじくんのことがいやなわけじゃないよ」
「ん?」
「さんじくんにさわられたくないわけじゃない」
レディの憂いごとの理由もわからないから解決策も思い浮かばずにただ無言の時間が流れていた食糧庫に涙に濡れて舌ったらずな音が響く。思わず聞き返してしまったけど聞こえなかったわけじゃない。レディのお言葉を聞き逃すわけがない。だけどレディはおれが聞き取れなかったと思ってしまったのかお優しくももう一度言い直してくれて今度こそ瞬く。膝に顔を埋めたまま、涙に濡れる声でおれを気遣ってくれている。
「いまわたし、はんせいしてるの」
「うん」
レディが悪いことなんてするはずないんだから反省することも絶対にない。でもせっかく言葉を紡いでくれたレディを遮ることもしたくなくて一応の相槌を打つ。
「さんじくんになでられたら、ゆるされたきになっちゃうからだめ」
「……、」
「わがままでごめんね」
ぐす、と涙をこぼす音が聞こえて胸が締め付けられる。レディの嫌がることはしたくない。でも、許されたくないだなんて自分を傷付けるレディは止めたい。何があったのかわからないおれが許すも許さないも決めていいわけないけど、それでも、それでレディが救われるなら許したい。さっき拒絶されて下ろしたはずの手を再び持ち上げる。おれの方こそごめんね、レディ。
「レディはわがままなんかじゃねェよ」
「……ッなでないで、っていったじゃん」
「ごめんよ、おれの方がわがままだね」
するすると指通りの良い髪を撫でながら謝っても手を振り払われることはなかった。
「今日のデザートはアイスなんだ。食べに来てくれる?」
撫でていた小さな頭がゆっくり持ち上がる気配がして手もそれに倣って移動しながら撫で続ける。涙の跡が頬に伝っていたけれど、ぱちんと合った目には新しい涙は浮かんでいなかった。
「……ゆるされちゃったからたべる」
頬の涙をごし、と手の甲で拭ったレディの紡いだ言葉におれの頬も思わず緩んで床に着けていた尻を持ち上げる。レディの髪から手を離すのが少し名残惜しくて最後にもう一度ひと撫でしてからアイスの待つダイニングへとエスコートするべく手を差し伸べた。
← →