タイトルを考えるのが死ぬほど苦手

 
2022/06/09


「何してんだ?」
「夕陽を見てるの」
「ふうん?」

 船縁に腰掛けて海を眺めていた女に後ろから声を掛ければ振り返りもせずに答えられてはつまらない。無視をされたわけじゃなくても、顔を見せてくれなかったことになんだか腹が立ってどかどかと足音に苛立ちを乗せながら隣にまで近付いて同じように腰掛ける。それでもおれの方を見ようとはしない。ムカつく。ちょっとはこっち見ればいいのに。

「何が楽しいんだよ」

 しばらく無言で横顔を眺めていたけどそれにも飽きて声をかける。……やっぱりおれの方へは視線を向けてくれない。なんでだよ。

「私の好きな人に似てるの」

 ふ、と笑みを浮かべて指差したのはさっきから視線を外さない夕陽で、眉間に皺が寄る。ゆらゆら海に反射しながら少しずつ沈んでいく夕陽に舌打ちしそうになるのをこらえて視線を外すだけにとどめた。

「……そりゃまたご機嫌そうな男だな」

 嫌味ったらしい言葉になるのも仕方がない。仕方がない、けれども好いた女の好きなやつを貶してるような言葉を紡いでしまったことに傷付けてはしないかとようやく思い至って様子を窺い見たのに楽しそうに笑ってたから安堵するより苛ついてしまった。

「確かに毎日楽しそうだよ」
「あっそ」

 くすくす笑って夕陽から逸らした目がようやくおれと絡んだのに、その目が見たこともないくらい優しくて、嬉しそうで、幸せに満ち溢れた目をしていたから思わず視線を逸らした。他の男を想って輝いた目と視線を合わせたくなかったから。

「……でも今日はちょっとご機嫌斜めみたい」
「んあ?」

 苛々して海を睨みつけていたせいで反応に遅れた。ご機嫌斜め? そう思って顔を上げてもゆらゆら揺れる夕陽は特にいつもと変わらないただの夕陽でしかなくて、感情の機微がわからない。

「どこが機嫌悪いんだ、よ、?」

 別にそいつの機嫌なんざどうでもいいけど、夕陽を見てそう思ったお前の気持ちはちょっと気になる。そう思って横を見て、ばちん、と縫い付けられるように絡んだ視線に言葉尻が萎む。なに。こっち見てたのか。あの夕陽じゃなくて。なんで。ふふ、と楽しげに笑ってまた夕陽に視線を戻したから、高鳴った心臓は一瞬で落ち着きを取り戻した。なんだ、タイミングが良かっただけか、くそ。

「なんでご機嫌斜めなのかわからないけど、そういうとこも好き」
「……おれに言ったって仕方ねェだろ」

 少しずつ海に沈んでいく太陽を見つめながら笑って言うからおれの気持ちも沈んでいく。

「でも、夕陽に向かってなら好きって言えるようになったってわかったから」
「?」
「次は本人に向かって言えるように頑張る」

 こっちを向いて笑った顔が赤く染まっていて、夕陽のせいなのはわかっているのにまた勘違いしそうになった。