タイトルを考えるのが死ぬほど苦手

 
2022/06/12


「おい、目から何か出、……」
「え、イタッ」

 それが何かを頭が理解した瞬間、べちん、と音が出る勢いでその小さな顔面を手のひらで鷲掴んでしまった。急に顔を鷲掴まれて混乱に陥りながらも反射的におれの手首を両手で掴んで引き剥がそうとしても無駄で、寧ろ力が強まっていくのを自覚する。あいたたた、と喚かれても手は離すことができない。だって、今おれの手のひらの下にある女の目からは透明な液体が零れ落ちていて、それを目に入れたくない。
 涙を流す女だと知らなかった。涙を流すところを一度たりとも見たことがなかった。だから最初に、目から出る何かは涙しかないのに目から何か出てるぞ、なんて間抜けなことを言おうとしてしまったくらいには、涙とこの女が結び付かなくて混乱した。そのせいで今この女の顔はおれの手のひらに覆われている。しばらく暴れていたのにただただ無言で顔を鷲掴みされている現状に慣れたのか、それとも諦めたのか暴れるのをやめてただぺちぺちとおれの手首だけを叩いて呻いている。暴れなくなったことによって手のひらの下の感触がまざまざと実感して、女が瞬きをするたびに濡れた睫毛が手のひらをくすぐって眉を顰めた。濡れている。ということは、泣いている。一度も泣いたことがない女が。手のひらで顔を覆い隠したところでこの女が泣いていないことにはできない。

「……アイスでも食うか?」
「え、こわ、なに」

 手のひらの濡れた感触に思わず溢れた言葉は恐怖に慄かれてしまって口籠る。そりゃあそうだ。この女からすれば訳もわからず急に顔を手で覆い隠されてしまって離す気もない男に唐突にアイスを勧められている。意味がわからないにも程がある。おれが理不尽にそんなことされたらとりあえず叩っ斬ってバラバラにする。でもおれには流す涙を止める方法はラミ相手の方法しか知らなくてそれ以上の言葉が出てこない。これに食いついてもらえなければ、もう他にどうすれば泣き止んでもらえるのかがわからなくて固まったまま動けない。ラミ以外で涙を止めたいと思った相手は初めてで、大人の女の泣き止ませ方がわからない。

「ふはっ」
「……、?」

 手の下で急に吐息をこぼして笑い出した姿に、ぐるぐる考えていた思考が途切れて見下ろす。顔を手のひらに覆われているにも関わらずくすくす笑い続ける姿に、泣き止ませたいとは思っていたのは確かでもあまりに唐突なその笑いに首を捻った。

「あはっ、アイス、そんなに食べたかったんですか? いいですよ、付き合います、急に猛烈に食べたくなる時ってありますよね」

 だから離して、と鈴を鳴らして笑う女の言い分は全くおれの思考に掠ってはいなかったけれど、とりあえず瞬く睫毛がもう濡れていないことにほっとして手を離す。

「ベポたちがおいしいおいしいって言ってたアイス屋さんでしょ? あの時のお誘い、断らなきゃよかったのに」

 しばらくぶりに見た顔はさっき一瞬だけ見えた悲しげな表情は消え失せて楽しげに顔が綻んでいて、つられて頬が緩みそうになるのを引き締める。そういえば昼間にベポたちがまとわりついて何かを言っていた気がするのをその言葉を聞いて思い出すけど意味がない。その瞬間にアイスは必要なかった。だって、お前も楽しそうに笑っていたから。