タイトルを考えるのが死ぬほど苦手

 
2022/06/16


「ゾロ?」
「……ああ、悪い」

 ぶんぶんと重たい串を振り回しながら睨み付けられると、蛇に睨まれた蛙のような気持ちになる。最初は何か怒らせるようなことをしたのかと思ったけど、勇気を出して聞いてみたら本当にただ無意識に見てるだけのようで、ならまあいっか、と思ったのも一週間で根を上げてしまった。だってうるさい。視線がものすごくうるさい。一言も言葉を紡いでいないのに(一、二、と振り下ろす回数を数える音は聞こえるけど、それだけ)、びしばしと突き刺さる視線がうるさすぎる。ゾロ、と尋ねても毎回変わらずなんの用もない。今日もそう。なんの用、と問えば申し訳なさそうに眉間に皺が寄って無理矢理視線を前に持っていくだけ。今まではそれで許してあげてた。だけどもう、今日は許してあげない。ゾロが無理矢理睨み付けている前方の空間に回り込めば片方の目をこれでもかってくらい開いて驚いて固まった。ぶん、と固まる前の最後の一振りの衝撃が風で伝わって髪の毛がぶわっと暴れたのを整えて口を開く。

「ねえ、何がしたいの?」
「……トレーニング」

 私もどう問えばいいのかわからなくてあやふやな質問になってしまったせいかしばらく考え込んで重たそうな串を握り直しながらどうにか答えたゾロに首を振る。そうじゃない。

「私に何か言いたいの?」

 ぱく、と口が開いたけど言葉が紡がれることはなかった。今さっき嗜めたからか、視線は合わずにうようよと私の体と自分の持っている串を往復してる様はとても世界一に迫る剣豪の姿には見えない。ただ私を見つめるだけのその姿はなんだかただの、……その先を勝手に言葉にするのはどうにも自意識過剰のようでいつも思いとどまってしまう。だけどはっきりさせるべきだ、そうじゃないと私の体がゾロの視線でひたすらに貫かれて蜂の巣になってしまう。今はもぞもぞするだけで済んでるけど、そのうち比喩なんかじゃなく本当に穴が開いてしまう。

「……あのね、別に見ちゃ駄目だって怒ってるわけじゃないよ」

 うようよと彷徨っていたゾロの瞳に光が宿って、ばち、と目が合う。

「理由が気になるの」
「……気になる」
「うん、そう、気になるの」
「気になるんだ、お前が」

 てっきり私の言葉を鸚鵡返しにしているのかと思ったゾロが、しっかり私の目を見てもう一度呟くから固まる。さっきまで戸惑い彷徨っていたはずの視線がばっちり私に固定されて、もう一度同じ言葉を繰り返される。

「いつ見ても違う、気がする」
「……ちがう?」
「今日、は……なんか、目が、違う、気がする」
「目?」
「……昨日は口、がなんか、違った。一昨日は、髪だ」

 ぽつぽつと零される言葉に目を見開く。その間も、更に日付を遡って答え合わせをしようとするわりには次々と不思議を投げかけてくるゾロの熱量に私の方が溺れてしまいそうになる。まさかそんな。ゾロが気付くなんて。一昨日私は髪の毛のオイルを変えたからかセットは同じはずなのになんだか雰囲気が違うような気がして自分でも何度も鏡を見てしまった。昨日はいつも塗っている口紅じゃなくナミちゃんやロビンちゃんたちとお揃いで買った口紅を塗って、そして今日は、届いたばかりの新商品のマスカラをまつげに塗った。
 化粧のことはわかっていなくても何かが違う気がする、と野生の勘で普段の私とは違うことには気付いている。呆然としているうちに私ですら新しく何をしたか覚えていない一週間前のことにまで遡られてようやくハッと意識を取り戻した。

「……毎日違う、……だからって見過ぎた、悪い」

 ゾロの申し訳なさそうな謝罪にばくばくと心臓が早鐘を打つ。自意識過剰になっても仕方ないと思う。だって、……だって、毎日何かが違うのは私だけじゃない。ナミちゃんやロビンちゃんだって、毎日何かが変わっていて、それなのにゾロが見ているのは私だけ。じゃあ、明日。明日、もし私が今日と何も変わらなかったら、それでもゾロが私をいつものように見つめ続けていたら、そうしたら、自惚れてもいい?