タイトルを考えるのが死ぬほど苦手

 
2022/06/25 誰のものでもない・月は遠くとも・だから謝らないで
※夢主のキャラがちょっと濃いかも


「おい」
「はい?」

 男のいなくなった隙にグラスを傾ける女に声を掛ける。警戒の滲んだ視線。確かに見知らぬ男に警戒するのは正しい。だが、警戒する相手を間違えている。

「さっきから勧められるがままに酒を飲んでいるようだが、酒のことは詳しくないのか」
「……?」

 不思議そうに首を傾げられて確信する。やっぱりお前は警戒するべき相手を間違えている。

「飲みやすく口当たりの良い酒ばかりだが、酔いが回るのが早い酒ばかりだ。一緒に来ている男とどれくらい親しいかは知らないが、騙し討ちのようなことをして酔い潰そうとしてる男はまともじゃねェ。今日は帰った方がいい」

 おれの話を聞きながらもグラスに口をつけてこくんと喉を動かした姿に、話すらまともに聞けないほど酔わせられてしまったのかと眉を顰める。特に目立った酔いの傾向は顔色からは見られないのに既に遅かったか、と舌打ちをした瞬間、笑い声が滲んで聞こえて視線を戻す。

「あなた良い人ね」
「……あ?」

 今度はおれが間の抜けた音を出してしまって固まる。

「大丈夫、わかってるの」
「……」

 なんだ、余計な世話だったか。騙し討ちをするような卑怯な男のどこがいいのかはわからないが、わかった上で酔い潰れて夜を過ごすつもりだったのか。わかってるならいい。

「これ以上被害者が出ないように痛い目見てもらおうと思って」
「……」

 うふ、と楽しそうに笑ってグラスを傾ける姿に思わず口が緩んだ。

「酒、強いのか」
「このお店のお酒を空っぽにするのはさすがに申し訳ないかしら」

 なるほどな、と笑って、それから首を振る。申し訳ないと思う必要なんてねェ。きっと店もグルだ。酒のプロが酔いが回りやすいものばかりを女に勧めているのに気付かない訳がない。ちゃんとした店なら男が席を立った時に、通りすがりの客が注意を促すまでもなく女を逃している。

「無理はするなよ」
「優しいのね」

 その言葉に顔を顰めた瞬間、トイレに続くドアが開く音がして顔を上げる。獲物を狩っているつもりの動物が罠にかかるのを見るために腰を上げてカウンターの端に座り直した。

「誰、あれ」
「知らないわ、ナンパされたの」

 しれっと嘘をつく女に自分が選ばれたとでも思っているのか気分良さそうに大きな声で笑う下劣な男の視線が横顔に刺さる。うるせェな、今から潰されるくせに。トイレじゃなくて作戦会議でもしてたのか、裏に引っ込んでいたバーテンダーも同じタイミングで戻ってきてまた酒を注文する声が聞こえた。案の定、度数が強い。じっとバーテンダーの手元だけを見る。酒に強いとは言っても、薬を入れられたりしたらどうしようもない。下品な男の自慢話をBGMに注意深く見守る。くすくすと愛想笑いとはとても思えないほど本当に楽しそうに笑う女の演技力に感心した瞬間、バーテンダーの服の裾から何か粉末が舞って液体に溶けたのが見えてそっとため息をついた。この島での資金調達をどうしようか悩んでいたのが馬鹿みたいだ。この店を潰せばいい。どうせ裏に表には出せない何かがゴロゴロ転がっているはずだ。ついでに海軍に恩も売れる。ただ、女が立てた計画を、結果的に救うとは言え台無しにしてしまうことだけが心残りで、無粋なことをしたバーテンダーに眉を顰める。お前が余計なことをしなければ、自業自得で潰れた男を肴に二人で笑えたかもしれないのに。
 手を捻り、バーテンダーのグラスをおれのグラスに、おれの横にある椅子を女に入れ替えて立ち上がる。あら、と素っ頓狂な声をあげる女を背に目を白黒させているクズ二人の体を真っ二つに斬った。何が起きたか分かっていない様子の二人を横目に女を振り返る。きっともうあの笑い声は聞けない。

「あなた本当に良い人ね」
「……あ?」

 さっき聞いたばかりの言葉がまた耳を滑って困惑する。

「見知らぬ女を助けてくれるくらい良い人なのにどうして海賊なんてしてるの?」

 不思議、と笑う女に唖然とする。知らないのかと思っていた。ただのお人好しな通りすがりの男だと思われていたのかと。誰かのためにクズな男をたった一人で制裁しようとし、おれのことを知っているのに普通の男に対する警戒しか持たず、挙句海賊の男に対して見当違いな褒め言葉をかけてきていた豪胆な女に思わず口角があがった。

「海賊は優しくねェ」

 上半身と下半身がばらばらになって混乱して床に崩れ落ちることしかできず泡を吹くクズ二人をさらに細切れにする。そんな姿を見ても尚、優しいじゃないと言葉を紡ぎながら不思議そうに首を傾げる様子に今度こそ喉が鳴る。

「気に入った女を船に連れ去ろうとしてもか?」

 長いまつ毛を揺らして瞬くのを見つめる。きっとまた笑って、そしてあの豪胆さできっぱりと断るんだろう。

「その女って私のこと?」
「お前以外に誰がいる」
「あは、優しいだけじゃなくて面白いのね」

 優しいだけでも不本意なのに面白いとまで言われて眉を顰める。面白いことを言ったつもりはねェよ。お前の方が大概面白い。というより、変な女だ。いくら自分で痛い目に合わせる予定だったクズ二人とは言え、クズ二人の体を細切れにする男を目の前にくすくす笑い続けるのは変だ。

「私は連れ去られないわ」

 予想通りきっぱり断る肝の座りっぷりに笑う。でも、と楽しそうに笑いながら一呼吸置かれて思わず耳を澄ます。でも、?

「優しくて面白い人に真摯にお誘いされたら断らないかもね」